僕の家では冷蔵庫やトイレのにおい取りに、コーヒーの出しがらを使っている。市販のものでは活性炭が使われ、活性炭は化学カイロにも使われている。コーヒーの出しがらでも、発熱するのではないか。
化学カイロは、鉄が空気中の酸素と反応して酸化鉄(水酸化第二鉄)になる時の熱を利用する。中身を調べると、鉄粉のほかに活性炭、食塩水、バーミキュライトが入っていた。
〈各成分の役目〉
活性炭:表面に小さな穴があり、その中に空気を取り込んで酸素の供給を促し、保温する。食塩水:鉄の酸化速度を速める。バーミキュライト:雲母系の原鉱石から作られる人工用土で、観葉植物の保水土としても知られる。活性炭と同じ様に表面に小さな穴があり、水分を取り込んで保水する。
鉄粉の酸化(化学カイロ)の実験については、教科書にも記述があった。「鉄粉6g、活性炭3gに食塩水を数滴入れ、ガラス棒でよくかき混ぜる」とあるが、食塩水の濃さや加える量については書かれていない。
《実験の方法》
フィルムケースに鉄粉(100メッシュ)6g、活性炭3gを入れ、そこに濃度2%、5%、10%の食塩水をそれぞれ0.5ml、1.0ml、1.5ml、2.0mlずつ入れて、ガラス棒でよく混ぜる。温度を1分ごとに15分間測定する。これを3回ずつ行う。
《結果と考察》
活性炭に濃度2%、5%、10%の食塩水をそれぞれ1.0ml加えた時に、最高温度となった。食塩水の濃さと温度の関係では、5%と10%の場合は温度上昇の仕方が似ていて、差がなかった。2%の場合は5%、10%に比べて温度は高くならなかった。2%の食塩水ではあまり変化がなかった。
《実験の方法》
鉄粉(100メッシュ)6gとコーヒーの出しがら3gを用意し、濃度5%、10%の食塩水をそれぞれ0.5ml、1.0ml、1.5ml、2.0mlずつ加えて、課題1の実験と同様に温度変化を調べる。
《結果と考察》
コーヒーの出しがらも活性炭と同じように発熱する。コーヒーの出しがらでは、5%、10%の食塩水をそれぞれ0.5ml加えた時に最高温度になった。温度は10%食塩水の方が、5%食塩水よりも少し高くなった。活性炭との比較では、活性炭の方が温度は少し高くなったが、あまり差がなかった。
《実験の方法》
鉄粉をよりきめの細かい300メッシュのものに変えて、活性炭とコーヒーの出しがらの発熱の様子を調べる。
《結果と考察》
活性炭、コーヒーの出しがらの場合ともに、300メッシュの鉄粉の方が100メッシュよりも温度が高くなった。しかしコーヒーの出しがらに10%食塩水を加えた場合は、100メッシュ鉄粉と300メッシュ鉄粉の温度上昇に大きな差はなかった。
《実験の方法》
鉄粉(300メッシュ)6g、コーヒーの出しがら(1g、2g、3g、4g、5g、6g)を用意し、5%食塩水を1mlずつ入れて、温度変化を調べる。
《結果と考察》
コーヒーの出しがら1、2、3gの場合の上昇温度はそれぞれ21.8℃、21.3℃、20.8℃だった。4g以上になると温度は上がらなかった(4g=4.5℃、5g=11.7℃、6g=9.8℃)。コーヒーの出しがらは、少ない方がよく上がる。コーヒーの出しがらが、食塩水を吸ってしまったためではないか。
《実験の方法》
鉄粉(300メッシュ)6gに食塩水(5%、1ml)だけを加えると、温度が約14℃上昇し最高温度が約44℃になった。鉄粉に食塩水を加えただけで、温度が上がることが分かった。これを基準にいろいろな物質(麦茶、煎茶、紅茶、そば茶、ルイボス茶、パン粉、竹炭、木炭、クラッカー、鹿沼土、バーミキュライト)の発熱の様子を調べる。
《結果と考察》
物質の密度が高い方が、上昇する温度も高くなる傾向にみえる。鉄粉と食塩水だけの基準からすると、煎茶(上昇温度19.2℃)や紅茶(17.7℃)、ルイボス茶(17.2℃)、竹炭(14.2℃)、パン粉(13.2℃)、クラッカー(8.5℃)は効果がないと考えられる。反対に、活性炭のような炭の仲間は、温度が上がる。しかし竹炭だけは上がらなかった。原因としては、木炭は大きなかたまりだったので、細かく割って3㎜以下の粒にして使用したが、竹炭は2㎜~7㎜の比較的大きな粒のまま使用したからではないか。活性炭の粒の大きさも3㎜以下が多かった。
《実験の方法》
竹炭を砕いてふるいにかけ、0.5㎜~1㎜の粒、1㎜~2㎜の粒、2㎜以上の粒(課題5の実験で使用)の3種類を用意した。鉄粉(300メッシュ)6gと3種類の竹炭各3gに、5%食塩水1mlを入れて混ぜた時の温度上昇を調べる。
《結果と考察》
竹炭の粒の大きさが0.5㎜~1㎜の場合、上昇温度は51℃、1㎜~2㎜では44℃、2㎜以上では14℃(課題5の実験データ)だった。竹炭も木炭や活性炭と同じように粒を細かくすることによって、温度も上がりやすくなる。粒を小さくすることで、表面積が広くなり、多くの酸素が取り込めるからだ。
《実験の方法》
コーヒーの出しがら約30gをアルミホイルで包み、15分間ほど加熱する。コーヒーの出しがらの炭3gと鉄粉6g、5%食塩水1mlを混ぜて15分間の温度上昇を測った。
《結果と考察》
コーヒーの出しがらを炭にすると、上昇温度は26.0℃になった(炭化前は20.8℃)。物質を炭にすると空洞が多くなり、酸素を含みやすくなるので温度が上昇する。
課題5の実験で使った物質に空洞が多くあれば、多くの空気を含み、酸素を鉄に送ることができるはず。このことから、多くの空洞があれば、たくさんの水を含むことができると考えた。そこで、物質の吸水量と温度上昇との関係について調べる。
《実験の方法》
課題5の実験に用いた物質各3gを網に入れて、水の中に20時間放置する。吸水前後の重さの差から吸水質量を計算し、課題5の実験で測定した各物質の上昇温度との関係をみた。
《結果と考察》
吸水量が多いと、温度も高く上昇するとは言えない。吸水量が多い物質は、少ない物質に比べてやわらかく、形がくずれやすいものが多い。実験では食塩水を吸ってしまい、鉄粉とふれ合わなくなるため、温度が上がらないのではないか。ただし炭のように硬い物質だけでみると、吸水量と温度上昇は関係がありそうだ。
木炭や竹炭を使うと、活性炭よりも温度が上がった。コーヒーの出しがらでも温度が上がったのでびっくりした。実験では温度が60℃以上になるのもあって、手で持てないなど、大変なことが多かった。でも、エコロジーに関心が持てて、楽しかった。
審査評[審査員] 宮下 彰
コーヒーの出しがらを冷蔵庫やトイレの臭い取りに使っている経験を通し、消臭剤として使われる活性炭と同様に化学カイロとしても使うことができるのではないか、と発想している。このように日常生活に関連させた研究の動機がまず素晴らしい。そして、実証するため、課題1から課題8までを設定し、条件を様々に変え、それぞれの実験において、15分間混ぜ続け、1分ごとの温度測定、かつ、それを3回繰り返すなど時間をかけている。このように、きめ細かくデータを蓄積し、考察に結びつけている点など、それぞれの実験が系統的になされているものであり、素晴らしい検証でした。
その結果、コーヒーの出しがらは活性炭の代わりになることが分かっただけでなく、鹿沼土や木炭もカイロとして使えそうである、との結論を導き出しており、身近なものを使ってエコ的な物を作っていく楽しさを発信してくれたとても素晴らしい研究です。
指導について郡上市立西和良中学校 青木益之
コーヒーの出しがらの有効利用では、脱臭剤や肥料等として使われている例があることは知っていた。しかし、化学カイロとして使えるかどうかについて、私には全くの未知数であった。このユニークな発想を検証するためには、多くのデータを収集することが大切であると指導した。
このようにして、同じ手順や作業を何回も繰り返す彼の毎日が続いた。一日中実験しても、グラフ1枚も書けないデータ量しか集まらなかった時もある。しかし、諦めず粘り強く取り組んだ結果、データの分析から、化学カイロとして使える可能性があることがわかってきた。
この研究は、基礎的な段階で終わってしまい、カイロの完成には至らなかった。しかし、科学で最も大切な、仮説を検証することの価値や意義を学んだようである。最後までやり抜いた彼の粘り強さや追究心に敬服している。