第54回入賞作品 中学校の部
秋山仁特別賞

最強の石積みに挑戦‼

秋山仁特別賞

愛知県刈谷市立刈谷東中学校 1年・2年・3年
三浦聖汰・石川拓実・市川浩志・篠田治亨・ロシンイー
  • 愛知県刈谷市立刈谷東中学校 1年・2年・3年
    三浦聖汰・石川拓実・市川浩志・篠田治亨・ロシンイー
  • 第54回入賞作品
    中学校の部
    秋山仁特別賞

    秋山仁特別賞

研究の動機

 東日本大震災では、多くの建物が津波で流された。丈夫な堤防が作れないかと思い、研究に取り組むことにした。

研究を始める前に

 部員たちが計30個の石を集めてきた。10個を適当に積んで、ミニカーをぶつけてみた。しかし、当たる場所が毎回変わり、石の崩れ方も変わった。いつも石積みの同じ場所に当たって、衝撃を加えることのできる装置(衝撃装置)を作った。

研究の目的

 衝撃に強い石の積み方を見つけ、津波に強い石積みを作る。

追究1:どんな石がずれにくいのか

【実験】1つの石におもりを衝突させる

 部員3人の各10個の石に1〜10の番号をつけ、それぞれに重りを衝突させて、石のずれる距離を調べた。各10回行い、平均距離を求めた。

《結果と考察》

「ずれやすい石」と言っても軽いわけではなく、石のずれと重さは関係のないことが分かった。「ずれにくい石」は表面と底がごつごつしている。「ずれやすい石」の底はつるつるしている。

追究2:石の積み方で崩れ方がどう変わるのか

【実験1】積み方を変えて調べる

 インターネットで調べると、「6接点になるように積んだ石垣はとても丈夫だ」とあった。6接点の積み方が、本当に丈夫なのか確かめる。

《方法》

中心となる石に4個、6個、8個の石が接するようにそれぞれ石を積んだ。中心の石におもりを50回ずつ衝突させて、それぞれの石積みが崩れるまでの平均衝突回数を求めた。

《結果と考察》

4接点での平均回数は1.66回、6接点は2.53回、8接点は1.52回だった。やはり6接点の積み方は崩れにくい。しかし4接点の方が、石があまり落ちないような気がする。

【実験2】どの石が崩れるのか調べる

 実験1と同様におもりを50回ずつ衝突させ、石積みの1段目の石は“ずれた”回数、2段目と3段目は落ちた回数を数えた。

《結果と考察》

4接点:4、6、9番の石がよく崩れた。4番はおもりを衝突させた石で、4番の上に積まれた石がないので崩れやすいのだ。6番は4番に接しているので、4番がずれる時に一緒に引っ張られたのだ。6接点:4番の石と周りの2、3、5、7、9番が崩れた。やはり4番がずれる時に一緒に引っ張られたのだ。8接点:他の積み方に比べ、全体的にどの石も崩れた。これは積み方が不安定であることからも予想された。
 6接点の積み方では、周りの石が、どの石と限らず、バランスよく崩れている。特に崩れやすい部分(弱点)がないので、6接点は丈夫だと言える。崩れる時に、下に落ちるだけの石と遠くまで飛んで落ちる石があることに気づいた。

【実験3】石の崩れ具合を調べる

 実験1と同じ方法で4接点、6接点、8接点の積み方での石の動く距離を調べた。

《結果と考察》

50回ずつの平均距離は4接点が4.27cm、6接点が5.99cm、8接点が3.44cmだった。8接点では石の動きが少なく、6接点が最も石が動いた。しかしビデオ映像では、8接点の場合、衝突させた石が動くと同時に上の石が落ち、それ以上動かない。8接点では1つの石に8個の小さな石が積まれているので、石が下に落ちやすいのだ。上に積む石を重くすれば、落ちにくくなるのではないか。

【実験4】上に積む石の重さを変えて調べる

 4、6、8接点のこれまでの積み方を基準として、中心の石にかかる重さが軽くなったり、重くなったりするように、10個の石を積み替えておもりを衝突させた。それぞれ50回行い、崩れるまでの衝突回数と石がずれた距離の平均を求めた。

《結果と考察》

乗せる石が重すぎても軽すぎても、石がたくさん動いた。しかし、上に積んだ石が、前に落ちる場合と後ろに落ちる場合がある。

追究3:上に積んだ石の落ち方はどうなっているのか

【実験】石の動きを調べる

 これまでの4、6、8接点での実験と同じ方法で、おもりをそれぞれ50回衝突させた。

《結果と考察》

上の石が下の石と一緒に動いて、後ろに落ちるパターンが75%、おもりが当たった石だけ抜けるパターンが25%だった。上下の石が一緒に動いて崩れるのなら、上下の石の向きを変えれば、落ちなくなるのではないか。

追究4:石を置く向きで崩れ方がどう変わるのか

【実験】いろいろな向きの組み合わせで調べる

 上下2つの石の向きは、おもりを衝突させる方向と同じ向きが「縦」、直角の向きを「横」とし、上下の石がともに縦の場合(縦・縦)、上が縦・下が横の場合(縦・横)、上が横・下が縦の場合(横・縦)、上下とも横の場合(横・横)の4パターンで、下の石におもりを衝突させて、崩れるまでの衝突回数(50回平均)を調べた。

《結果と考察》

(縦・縦)は1.48回、(縦・横)は1.4回、(横・縦)は1.74回、(横・横)は1.59回だった。(横・縦)の向きに積むと崩れにくい。上の石がずれなければ、もっと丈夫になるのではないか。

追究5:上下の石の間をなくすと丈夫になるのか

【実験1】石積みに砂を詰めて調べる

 中心石が縦向き・上の石が横向きの6接点による積み方で、おもりが当たる面とは反対側の石のすき間に、少し水で湿らせた運動場の砂を詰めて、崩れるまでの衝突回数を調べると、予想通り丈夫になった。

【実験2】砂の粒の大きさを変えて調べる。

 砂をふるいにかけて極小・小・中・大の大きさに分け、石の間に詰めた。

《結果と考察》

「極小」が1.525回、「小」が1.544回、「中」が1.28回、「大」が1.22回で、砂粒の「小」が最も丈夫だった。砂粒は小さめの方が強くなる。

【実験3】水の量を変えて調べる

 砂100cm³に混ぜる水の量を20、30、50mlと変えた。崩れるまでの平均回数はそれぞれ1.36回、1.43回、1.37回。30mlの場合がわずかに丈夫になったが、あまり違いはない。水50mlの砂は詰めると流れ、水20mlの砂はすぐサラサラに乾燥して詰めにくい。

追究6:「最強の石積み」になっているのか

【実験1】ミニカーに対して最強か調べる

 6接点の石積みで全ての石の間に砂を詰め、ミニカーを50回衝突させた。崩れるまでの平均回数は5.18回。ずっと崩れにくくなった。

【実験2】津波に対しても最強か調べる

 水槽を利用し、中の仕切りを外すことで水が津波のように石積みに押し寄せる装置を作った。水量(水の高さ)によって、崩れずに耐えた回数(50回平均)から成功率を求めた。

《結果と考察》

石積みの高さ4.5cmに対し、水の高さが7.5cmの時に約60%が成功した。この石積みの1.67倍の高さの津波なら約60%耐えられる。「高さ約10mの津波なら、約6mの高さの石積みを6接点で、石が縦横交互になるように積み、水が来る反対側から石と石の間に小粒の砂を詰めれば、約60%は耐えられる」ということだ。
 この実験のビデオ映像では、水の量が多くなるほど、石積み全体が後ろに押されて下がったり、まくり上げられた水流で石が浮いたりして、崩れやすくなっていた。この点を改良すれば、さらに丈夫な石積みが作れるだろう。

最後に

 自然の石や砂だけでも丈夫な堤防が作れることが分かった。さらに「最強の石積み」を追究することで、どんな津波にも耐えられる堤防を作り、より多くの人々の命が救われるようにしたい。

指導について

指導について刈谷市立刈谷東中学校 濱口 留美

 この研究は、東日本大震災から2年以上も経っているのに、被災地ではなかなか復興が進まず、津波で流されたがれきが残っていたり、更地のままだったりする映像をニュースで見て、「この津波から町が守られていれば」という生徒の思いから、スタートしました。生徒は、いろいろな石の積み方を考え、同じ場所に衝撃が加わるように衝突装置を作ったり、簡単に津波が起こせるような津波発生装置を作ったりして、何度も何度も実験を繰り返しました。そして、そのデータを考察したり、ビデオ撮影をして石の崩れ方を分析したりして、さらに丈夫な石の積み方はないかを追究しました。この地道な研究の結果、最強な石積みにたどり着くことができました。結果を出せて、生徒は「この研究は、津波から町を救うのに役立つ」と喜んでいました。今後も生徒には、身の回りの「なぜ」を大切にし、地道に研究を続けてほしいです。

審査評

審査評[審査員] 秋山 仁

 東日本大震災の被災地のガレキの回収を困難にしている原因のひとつが鉄骨にあることに注目し、鉄骨を使用しないで堤防の近くにある石を利用して丈夫な堤防を築くにはどうしたら良いかを科学的に論じた素晴らしい作品である。実験や追究を繰り返しながら、以下の意義深い結論を導いている。
 石積みは、石どうしの接点の数によって丈夫さに違いがあり、6接点になるように積むのが丈夫である。おもりをぶつける石の上にのせる石の重さは、丈夫さに関係がない。石を置く向きによっても丈夫さに違いがあり、上が横、下が縦の向きが丈夫である。石積みに詰める砂の粒の大きさによっても丈夫さに違いがあり、小さめの粒で隙間を詰めるのが丈夫である。
 上の結論の中で、特に興味深いのは、石積みにおいて石どうしの接点の個数が6である点であり、これは正六角形の平面充填やハニカム構造に合致していることである。
 極めて重要な応用を有する本研究は高く評価でき、秋山仁特別賞に値する作品である。

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