第60回入賞作品 中学校の部
継続研究奨励賞

光の色によりレタスの味は変えられるか

継続研究奨励賞

静岡県静岡雙葉中学校 1年
栁田 純佳
  • 静岡県静岡雙葉中学校 1年
    栁田 純佳
  • 第60回入賞作品
    中学校の部
    継続研究奨励賞

    継続研究奨励賞

研究の背景

 小学3年生の時、光の色で植物の成長が変わるのか、小松菜を対象に研究した。葉の枚数や大きさ、茎の高さを比較して総合的に見ると、緑の光、赤の光、青の光、自然の光、白の光の順で成育がよいという結果となった。翌年は小松菜をシソに換えて、赤、青、緑、白に加え、赤緑(オレンジ)、青緑(水色)、赤青(ピンク)と2色合わせた光も使って観察を続けた。結果、シソも光の色の違いで成長に差があった。緑と緑、赤と緑の組み合わせで茎が高くなり、葉も大きくなった。
 これまでの研究で、植物の成長に必要な光の色は緑と赤だと思ってきた。しかし6年生の時、インターネットで売られる水耕栽培用のLEDを見てみると、白、赤、青の組み合わせが多いと気づいた。本で調べても、赤や青の光でよく育つと書かれている。緑の光がよいという過去の研究結果は間違っていたのか、改めて考えてみた。
 原因として思いついたのは、色による光の明るさの違いだった。同じように光を当てたつもりでも、色で光の明るさが違い、植物の成長に影響を与えていた。そこで光の明るさ(照度)をそろえて同じ研究をしたところ、赤と青の光が植物をよく成長させ、単色より赤と青を合わせた光のほうがよく育った。発芽率は白の光が高く、芽に必要な色は葉や茎とは違っていることもわかった。
 6年生の研究では、赤、青、緑、白の光で育てたレタスの味の違いも比べてみた。家族や友人など15人に食べてもらい、色で味に差があるらしいことは確認できた。しかし、15人ではデータの量が少なすぎる。
 今回はより詳しく、光の色でレタスの味が変わるのかを研究した。試食の人数を50人に増やし、葉のやわらかさや保存状態、細胞の状態なども比べた。さらにトマトのように実を食べる植物も、光の色で成長や味に差があるのか、調べてみたいと考えた。

光の色とレタスの探究

異なる色を当てたレタスの育て方

 まず、6等分したスポンジに切り込みを入れ、レタスの種を2粒ずつ落としてトレイに並べる。スポンジに水を含ませ、トレイにも水を注いで4週間、苗を育てる。
 次に図のような水耕栽培層を作る。スポンジ苗の底が液肥(希釈したハイポニカ)に触れるように、アルミ箔シート(遮光板)はプラコップの底に合わせて丸く切り抜いている。プラコップの底もカッターで丸く切り取り、切り取った底の中心をさらに丸く切り取ってプラスチックのリングを作っておく。育てたスポンジ苗は安定させるため、裏返して箱状にしたお茶パックの中へそっと置き、外側から先ほどのリングをはめて固定する。こうして完成したお茶パック苗を、底を抜いたプラコップへひとつずつ入れる。

 水耕栽培層の上にそれぞれ、赤、青、赤青のLED電球をセットしてレタスを育てた。赤はLED電球3個、青はLED電球2個、赤青は赤のLED電球2個と青1個とし、照度を約900LUXにそろえた。隣の苗へ違う光が届かないように、それぞれを段ボールで仕切った。

異なる色で育ったレタスの味の違い

 赤、青、赤青の光で育ったレタスを静岡STEMアカデミーに来ていた50人に食べていただいた。甘み、苦み、辛み、香りの4つを「ある・ふつう・なし」で評価してもらい、「ある」を5、「ふつう」を3、「なし」を1、「不明」を0ポイントとして集計したのが下のグラフだ。

赤の光で育ったレタスの味

青の光で育ったレタスの味

赤青の光で育ったレタスの味

 この結果から、赤青の光で育てたレタスの味が最も濃いと考えられる。逆に、青の光だけで育てたレタスの味が最も薄い。味が違うということは、葉の成分が違っていると推測できる。今後は、根から吸収される水溶液の成分や、気孔から入る二酸化炭素や窒素などの影響にも目を向ける必要がある。

異なる色で育ったレタスの強さの違い

 レタスの味比べの時、光の色によって葉のやわらかさが違うことに気がついた。光の色でレタスの葉の強さに差が出ているのか、探究することにした。突っ張り棒に洗濯ばさみで赤、青、赤青の光で育てたレタスの葉をぶら下げ、10円硬貨を小さな袋に入れてクリップで葉の下側に取り付ける。それぞれ、何gの重りで葉が破れるのかを比較した。赤で育ったレタスの葉が最も薄かったので破れやすく、青と赤青は同程度だと予想していた。
 すると、赤が56.7g、青が46.8g、赤青が63.0g(いずれも5回の実験の平均)の重さで破れ、最も弱いのは青だった。しかも青と赤青の強さには約15gの差があった。光の色によって育つレタスのやわらかさ、強さには、確かに差があることが明らかになった。

電子顕微鏡を使った細胞の観察

 それぞれの光で育ったレタスの葉には鮮度の差もあるのではないかと、保存状態を変えながら実験したがはっきりしなかった。肉眼ではわからない小さな違いを確かめるため、静岡科学館の電子顕微鏡をお借りして、赤、青、赤青の光で育てたレタスの葉の細胞を比較した。
 すると、それぞれの光で育った葉の表面細胞は、その大きさに違いがあった。細胞の量、形も少しずつ違っていた。光の色によって引き起こされる、この表面細胞の違いが、味や葉の強さに影響したと推測できる。


電子顕微鏡で見たレタスの葉の表面(左から赤・青・赤青で育ったレタス)

光の色とトマトの探究

 光の色の違いは、トマトなど実を食べる植物の成長にも影響を与えるのだろうか。葉の大きさ、花や実のつき方、味に違いはあるのだろうか。レタスの葉での研究を、今度はトマトに置き換えて調べることにした。
 水耕栽培層はレタスと同じように作り、赤、青、緑、白のLED電球を用意した。レタスと同様に、すべての色で照度をそろえる。比較のために、太陽光でも苗を育て、観察してみた。
 その結果、太陽光で育てたトマトには花が咲いたが、LED電球のトマトはどの色でも花が咲かず、実がならなかった。最も高く成長したのも太陽光で、LEDのなかでは青の生育がよく、緑はあまり成長しなかった。白い紙の上に、赤、青、緑、白、太陽光で育ったトマトの葉を1枚ずつ並べて比較すると、青、緑、太陽光の葉は大きく、赤の葉は色が濃かった。同じ色で育ったレタスの葉とも比べると、赤で育ったレタスやトマトの葉は濃い緑色になり、表面がぼこぼこになる。青、緑、白で育ったレタスやトマトの葉はやわらかくなる。緑で育ったレタスやトマトの葉は小さい、など複数の共通点があった。花が咲き、実がなっていたらトマトの花や実にも、色による違いが認められたのかもしれない。
 その後、千葉大学の植物工場を見学して、レタスは弱い光でも育つがトマトはその3倍の光が必要なことがわかった。トマトを育てるには光を当てない「暗期」という時間も必要で、肥料の窒素成分も注意深く調節していることなどを教わった。
 今回、確認できた育つ色による味の違い、表面細胞の違いなどをさらに探究していけば、気候に左右されず1年中安定した野菜の提供や腎臓病などの人たちでも安心して食べられる「機能性野菜」が作れるのではないかと思った。

指導について

静岡STEMアカデミー アドバイザー 増田 俊彦

 私たちは、STEM科学教育の普及を目指して、子ども達の発想を大切にした科学的探究活動(自由研究)の講座を開いています。栁田さんは、LED電球を使って野菜を育てるミニ野菜工場を段ボールで作って、次々出てくる疑問を探究し続けてきました。昨年、育てたレタスを食べたところ、LED電球の色の違いによって育てたレタスの味が違うのではないかということに気づきました。「もし大勢の人に食べてもらって味に違いがあるとしたら、機能性野菜として発展させることができるのではないか」という疑問を抱いて、今回の探究になりました。私たちは子ども達の探究にスイッチが入ったら、継続して探究していくような関わり方を大切にしています。それは科学的な探究能力が身につくように育てたいからです。そうした栁田さんの継続研究姿勢を評価していただいたことに、とても感謝しています。

審査評

[審査員] 田中 史人

 本研究は、小学生の時に「小松菜」を使い「光の色によって植物の成長は違うのか?」をテーマにした研究から始まりました。自分で行った結果とインターネットで調べた結果に差があることを不思議に思い、その解明に向け研究を行いました。その後、試料をレタスに変え光の色の違いにより発芽や葉、茎の成長の違いに気付くなど、試行錯誤を繰り返して研究を進めています。身の回りの材料を使い、自作した水耕栽培の装置や葉の強さを調べる装置、LED電球を使用した実験装置など随所で工夫のあとが見られます。色の違いによる成長や味覚、葉の柔らかさなどを調べる実験では調査に協力した人たちから集められたデータを年代(齢)別に集計し分析・考察しています。味の違いから葉における成分分布をモデルで考察し、根から吸い上げる養分や空気中からの気体の影響についても目を向ける必要がある、と今後の課題も見つけ出しています。また、レタスをトマトに変えて行った実験では、とてもたくさんの実験データを集め分析しています。7年間にわたる研究は高く評価されます。今後も継続して行うことで、「機能性野菜」の開発などに発展させた研究を進めていくことを期待します。

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