第60回入賞作品 小学校の部
3等賞

安倍川の鉄丸石はどこから流れてくるのか

3等賞

静岡県静岡市立富士見小学校 6年
高津 圭梧
  • 静岡県静岡市立富士見小学校 6年
    高津 圭梧
  • 第60回入賞作品
    小学校の部
    3等賞

    3等賞

研究の動機

 小学校5年生の自由研究で、静岡県の河原にはどんな種類の石があるのか、天竜川、大井川、安倍川、富士川の下流河原を調べた。地質や地形が岩石の分布にどう影響するのか、静岡県地質図などを参考に研究した。
 その後、安倍川の南安倍川橋近くの河原で、初めて見る赤褐色の丸みがある石をみつけた。ハンマーで割ると、赤褐色の部分は外側へ層をなしていて、内部は黒かった。黒い部分には肉眼で見える砂粒のような物が入っていて、日光を反射して白く輝いている。「静岡科学館る・く・る」の先生に見ていただいたところ、石は鉄丸石といって、内部で光っているのは黄鉄鉱という鉱物の可能性が高いと教えられた。鉄丸石について本やインターネットで調べたが、情報はあまりなかった。
 2019年3月、静岡県地学会の巡検会に参加して、静岡県道207号線につながる富厚里橋手前で多数の鉄丸石を採取した。富厚里橋は安倍川支川の藁科川に架かる橋だ。採取した鉄丸石は安倍川で拾った石より丸く2~3倍の大きさで、とても重く色は黄土色に近かった。安倍川本川の鉄丸石と違う点が多く、不思議に思った。
 鉄丸石への興味がいっそう湧いて、安倍川水系(本川だけでなく支川を含めた安倍川の流れ)を鉄丸石が流れるルートや分布、内部の鉱物について調べることにした。人々が鉄丸石のことをよく知ることができるように、情報を増やしたいと考えた。

研究の目的

研究に対する予備知識

 鉄丸石は一種のノジュール(化石や砂粒を核に周囲とは異なる成分が団塊状に凝集したもの)で、硫化鉄が濃集して固まったと考えられている。へそと呼ばれる凹みを持つものがあり、切断すると凹みがチューブ状になっていて、黄鉄鉱などで満たされていることがある。
 一級河川の安倍川は、大谷嶺から静岡県を流れる急流土砂河川だ。中河内川、足久保川、藁科川など大きな支川は西側から本川へ流れ込み、本川は流域の東側に偏って流れている。下流域でも川床勾配が急で、河口部にも礫や小石が多い。

研究の目的と仮説

1.
安倍川水系の鉄丸石が流れるルートを調べる。安倍川下流から上流へと調査を続け、鉄丸石が見当たらなくなる地点を探す。鉄丸石がない場所を特定できれば、直前に採取できた地点近くの地層か、周囲の支川から流れていると推測できる。
2.
鉄丸石の内部を調べ、河原ごとに鉱物が入っている鉄丸石の特徴を調べる。その河原の鉱物入りの鉄丸石を、他の河原で採取した鉄丸石や他の鉱石と比較し特徴を把握できれば、それぞれの河原で鉱物入り鉄丸石を見た目でみつけやすくなると思う。
3.
安倍川水系の鉄丸石が流れるルートからその分布を予測し、鉄丸石が「ある」「ない」の境目に、どんな理由があるのかを調べる。

研究の方法

目的1の研究方法

採取地点の河原で、周りの風景や河原の様子、川の流れなど、証拠写真を撮る。
鉄丸石を1つみつけたら、その場所にメジャーで2m四方の正方形を作り、正方形の中にある鉄丸石を採取する。
採取地点を地図に書き込み、その場所の情報をメモ帳に記す。
川を上り、①~③を繰り返す。
鉄丸石が見当たらなくなったら、その地点と、直前に採取できた地点との間に流れ込む支川を確認する。支川があれば、その支川を採取地点にする。
最後に鉄丸石が採取できる河原が確定したら、その場所から下流へと鉄丸石が流れているとわかり、鉄丸石が流れていくルートが判明する。

目的2の研究方法

鉄丸石をハンマーで割ったり、機器で切ったりし、内部を観察できるようにする。可能ならば研磨する。
鉱物入り鉄丸石の特徴を、他の河原の鉱物入り鉄丸石や、同じ河原の鉱物が入っていない鉄丸石と比較して、特徴を見つける。
鉱物入り鉄丸石に共通する特徴をまとめる。

目的3の研究方法

目的1で調べたルートから、鉄丸石の分布を調べる。
鉄丸石の分布から地層の境目を予測する。
静岡県地質図と比較し、地層の実際の境目を調べる。
何が影響して境目ができているのか、本やインターネットの情報から調べる。

研究の結果

目的1の研究結果

 安倍川本川は俵沢より上流では鉄丸石が採取できず、竜西橋付近より下流で採取することができた。支川の藁科川では鍵穴付近より上流では鉄丸石を採取できず、八幡付近より下流では採取することができた。支川の足久保川では、足久保川起点まで鉄丸石を採取することができた。
 安倍川水系の鉄丸石は、藁科川は八幡付近から流れ始め、途中水見色川の鉄丸石と混ざって、下流まで流れる。足久保川は起点から流れ始め、安倍川本川と合流して下流まで流れる。安倍川本川や中河内川で鉄丸石を見つけられなかった地点も、地質に大きな変化はなく、鉄丸石が流れているかもしれない。

目的2の研究結果

 鉱物が入っている鉄丸石の特徴は個体によって異なるが、へそ石と呼ばれる鉄丸石には、チューブ状の鉱物が入っている可能性が極めて高い。鉱物入り鉄丸石は、古い石であるといえる。層が分厚くいくつか重なっていること、たくさんの傷がついていることも、鉱物入り鉄丸石の外見的特徴といえる。


藁科川で採取した鉄丸石(中心部が黄鉄鉱)

目的3の研究結果

 安倍川下流でかなりの鉄丸石が採取できたのは、静岡県地質図内の「砂岩頁岩互層及び頁岩」の地層が影響している可能性が高い。この地層の堆積岩類が川へ落下して、含まれていた鉄丸石が流されたと予想される。
 今回、安倍川本川の曙橋付近から横山にかけて、鉄丸石がみつからない地点が多かった。現在の地質が静岡県地質図とは変わってしまっている可能性もあるが、ここに鉄丸石がないとは断言しにくい。
 足久保川は流域に地質の変わり目がなく、起点でも鉄丸石が採取できた。藁科川では地質図の変わり目で鉄丸石が採取できなくなり、地質分布図の地質の境目と似た分布となった。


安倍川水系での鉄丸石分布図

指導について

静岡STEMアカデミー 静岡大学特任教授 青木 克顕

 入選した高津圭梧さんは、小学5年生から静岡STEMアカデミーの教室で、自由研究に取り組んできました。今回受賞対象となった安倍川の鉄丸石についての研究は、瀬戸川層群の中より産出するノジュールについて関心をもち、その分布を丁寧に調べたものです。その手法は、慶長小判の金を産出した梅ヶ島金山の鉱脈を探す手法を用いたものです。ただ、やみくもに探すのではなく、地質図などを見ながら調査をした結果、短期間でおおよその分布範囲を調べることができました。また、鉄丸石を切断して中を調べたところ、化石のようなものが見られたり、黄鉄鉱が入っているものもあったりして、ますます興味が広がっているようです。高津さんは、静岡県地学会の巡検会などにも参加し、高校や大学の先生方と交流を持って、さまざまな助言をいただけたことが、今回の受賞につながったと思います。今後、さらに研究が深まることを期待しています。

審査評

[審査員] 田中 史人

 大理石の中に入っている化石を調べる研究を4年生で行い岩石に興味をもち、その後の調査を通して本研究に発展させることができました。河原で見つけた鉄丸石をハンマーで割り、内部の様子や構成している鉱物の種類の違いなどから研究を展開しています。鉄丸石の採取は、実際に4m²の正方形の中で条件をそろえ、工夫して行っています。雨が多く降った令和元年の夏休みでしたが、採取場所は安倍川とその支流である藁科川や足久保川をはじめとした37カ所の河原で行われました。その調査の数の多さからも努力の成果を窺うことができます。広範囲にわたり多くの鉄丸石を採取し、継続して調査・研究を進めた取り組みを高く評価します。また、実際に採取したそれぞれの鉄丸石に含まれている鉱物の種類の違いをもとに、地形や地質分布図との関連とその違いについても考察し、その中から課題も見つけています。今後は河原の岩石をもとに自然災害への対策を立てるなど、さらに継続して研究を進めていくことを期待します。

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