はじめに
毎年、雁が音中学校の近くでは、ラグビーのトップリーグの試合が行われる。2019年のラグビーW杯を観て興味を抱いたので、トップリーグの生の試合を観戦した。すると楕円形のボールがどこに弾むのか、全く予想ができなかった。また、ボールが転がっている時に、突然高く跳ねることがあった。ボールは不規則に転がったり跳ねたりしていると思っていたが、選手は長年の経験でどこでどう弾むのかを予想できると知り、その秘密を知りたくなった。そこで科学部の仲間と、ラグビーボールの跳ね方に何か規則があるのか、調べることにした。
予備実験/追究1〜2
ラグビーボールの跳ね方から規則を見つけ、条件による跳ね方の違いを解明するために、予備実験を行った。
予備実験
下の写真のような装置を作り、1mの高さからラグビーボールを縦向きに落下させた。ボールを支えているハンドルを開くことで、ボールをできるだけ中心に落とせるようにした。ボールが床に落下して跳ね上がり、再び床に落下する時、中心からどれだけ離れた地点に落下するのか、100回繰り返して記録した。サッカーボールでも同じ条件で調べて、ラグビーボールと比較した。
その結果、ラグビーボールの落下地点にはばらつきがあり、記録用紙8枚を広げないとすべての地点を記録できなかった。サッカーボールはほぼ中心付近に集中し、記録用紙1枚の範囲で収まった。
追究1 ボールの向きを変えて落下地点を調べる
予備実験と同じ方法でラグビーボールを横向きに落とし、落下地点を縦向きに落とした結果と比較した。
その結果、横向きのほうがボールの落下地点が中心付近にまとまり、ばらつきが少なかった。しかし、すべてが中心付近に落下したわけではない。また、1回落下してからボールが跳ね上がる高さは、横向きに落とすほうが高くなる傾向があった。跳ね上がる高さが落下地点に影響している可能性を考え、高さと落下地点との関係を調べてみたが、 規則性を見つけることはできなかった。
追究2 ボールを落とす高さを変えて調べる
0.5mと1.5mの高さからも、ボールを落として落下地点を調べた。高さ以外は予備実験と同じ方法で、縦向き、横向きの両方を調べた。すると縦向きに落とす場合、ボールを落とす高さが高くなるほど、落下地点のばらつきが大きくなった。横向きに落とす場合、落とす高さが0.5mと1mでは落下地点に大きな差はなかった。1.5mの高さから落とす場合は、ばらつきが大きくなった。
このことから、ボールを落とす高さが高いほうが、ボールの落下地点のばらつきが大きいことがわかった。
追究3〜4
追究1〜2では、跳ね方に規則性を見つけられなかったので、ボールを簡単な形に再現できないかと考えた。
ボールを多面体で考える
ラグビーボールを正八面体に、サッカーボールを正二十面体に置き換えた。それぞれ体積がほぼ等しくなるようにモデルを作り、それぞれを1mの高さから100回ずつ落としてみた。モデルが床に落下して跳ね上がり、再び床に着地する時、最初の落下地点からどれだけずれたのか、移動距離を調べて記録した。
その結果、正八面体(ラグビーボール)は落下する向きによって地面とモデルの間の角度が変化する。角度が大きいと、落下地点の移動距離が長くなる。
正二十面体(サッカーボール)は球体に近く、落下の向きによる地面とモデルの間の角度はほとんど変わらない。
追究3-1 ボールにさまざまな角度をつけて落とす
本物のラグビーボールを手に持って、ボールにさまざまな角度をつけながら床に投げ、ボールが床に落ちた後、どのように跳ね上がるかを調べた。
その結果、ボールの上部が右に傾いている時は、ラグビーボールは必ず右へ跳ねた。上部が左に傾いている時は、必ず左へ跳ねた。上部が傾いている方向に必ず跳ね上がるため、いつでも同じ角度で床にぶつけられれば、いつでも決まった場所にボールは落ちると考察する。
追究3-2 ボールと床が接する角度を変えて落とす
追究1〜2で使った装置のハンドルに、斜めに発泡スチロールを取り付け、ラグビーボールに角度をつけて落とせるようにした。ボールと床の間の角度を10°ずつ変えて落とし、追究1〜2と同じ方法で落下地点を記録した。ボールに角度をつける時は、ボールの上部がハンドルを操作する人のほうへ傾くようにして調べた。
すると、ボールにあまり角度をつけていない時は落下地点のばらつきが大きく、特定の傾向は見られなかった。角度が大きくなるにつれ、落下地点は記録用紙の下側(ハンドルを操作する人が立つ側)に集まってきた。
追究3-1と同じように、ボール上部の傾く方向に、ボールが跳ね上がった結果だと考えられる。角度が40°を超えると、ボールは記録用紙下側の決まった範囲に落ちることが増えた。ボール上部の傾きの向きと、ボールと床の間の角度の大きさによって、ボールが跳ね上がる方向が決まることがわかった。
追究4-1 ボールを回転させて落とし、高く跳ね上がった時のボールと床の接する角度を調べる
ラグビーボールが突然高く跳ね上がるのは、転がる間にボールと床の接する角度が変わるため、という仮説を立てた。そこでラグビーボールを回転させながら落とす装置「転がり君」を作り、装置を使って落としたボールの軌道を100回調べた。ボールが床を転がりながら高く跳ね上がった時点でのボールと床の角度を、ハイスピードカメラで記録した。すると、ボールの上部が進行方向へ傾いている時は、必ずそのまま前へ転がり続けていた。ボール上部が進行方向とは逆向きに傾いて着地した時に限って、ボールが高く跳ね上がっていた。
追究4-2 ボールが転がる間の回転速度を調べる
追究4-1のハイスピードカメラの映像から、ラグビーボールがそのまま1回転している時の平均回転速度と、高く跳ね上がっている時の平均回転速度を比較した。するとボールが高く跳ね上がる時は、そのまま進んでいる時に比べて、1回転するのに約1.4倍の時間がかかった。ボールの回転速度が遅くなると、ボールと床に接する角度が変化し、ボールが高く跳ね上がると考えられる。
追究4-3 ボールの回転速度を変えて高く跳ね上がる場所を調べる
「転がり君」のより高い位置、中間の位置、より低い位置から回転速度を変えながらラグビーボールを床に落とし、転がって高く跳ね上がる場所をそれぞれ調べた。
その結果、より高い位置からボールに回転をかけながら落とすと、ボールが転がる距離が長くなり、落下地点から離れた場所で高く跳ね上がる傾向があった。ボールの回転速度が速く勢いがある場合は、床を転がっても回転速度は落ちにくいと考えられる。より低い位置から落としたボールは、100回中4回しか前へ転がらなかった。ほとんど無回転で落下し、ボールの上部が進行方向の逆を向くことが多いため、跳ね上がる力が働いて前へ進まなかったと考えられる。
追究の検証
追究したことが正しいかどうか、ラグビー選手にラグビーボールを蹴ってもらい、ボールの軌道を調べてみた。実際のラグビーの試合も、回転速度の変化によって、ボールが高く跳ね上がることがわかった。
[審査員] 木部 剛
ラグビーボールの跳ね方を科学的に捉えようという研究です。トップリーグ選手の経験的なボールの挙動予測の話に興味を持ち、ラグビーボールの跳ね方の規則性を実験的に見いだすことに挑戦しました。この研究の特徴は総勢36名が協力して研究に取り組んでいる点です。装置の作製や各100回の繰り返し実験、画像解析など、さまざまな役割を分担することにより、協力してデータ収集を行ったことがうかがえます。研究内容については、ボールを用いた実験でなかなか明確な規則性を見いだせなかったときに、ラグビーボール、サッカーボールをそれぞれ正多面体に置き換えた発想力が高い評価を受けました。また、追究4でボールを転がして落下させる装置を作製することは大変だったと思いますが、転がりパターンを画像解析し、回転速度と跳ね上がり方との関係性を見いだしたことは大きな成果でした。これからもこの良いチームワークで、研究やラグビーに取り組んで行ってください。
藤井 亮太
2019年は日本でラグビーのW杯が開催され、大変盛り上がりました。ラグビーボールは楕円形をしており、一見どこに跳ねるのか予想がつきません。しかし、選手のインタビューを聞くと、長年の経験からボールがどのように転がって跳ねるのか、予想できることを知りました。その事実に驚くと同時に、予想できるということは必ず何か規則があるということに気付きました。
追究を続けるために、さまざまな工夫をしました。どのような装置を作れば、ラグビーボールを毎回同じように落とすことができるか、アイデアを出し合いました。ボールに角度を付けて落とす「ハンドル」、ボールを回転させて落とす「転がり君」は科学部の努力のたまものです。実験回数は約2000回。科学部の努力や工夫が実を結び、ラグビーボールの規則を結論づけることができました。今後も科学部の仲間で意見を交流し合い、さらに研究が深まることを期待しています。