第62回入賞作品 中学校の部
オリンパス特別賞

常総市の沼や川はきれいかな? Ⅳ

オリンパス特別賞

茨城県常総市立水海道西中学校 3年
猪瀬 広貴・猪瀬 春佳
  • 茨城県常総市立水海道西中学校 3年
    猪瀬 広貴・猪瀬 春佳
  • 第62回入賞作品
    中学校の部
    オリンパス特別賞

    オリンパス特別賞

研究の動機と目的

 霞ケ浦環境科学センターで霞ヶ浦の水質やプランクトンについて学んだことがきっかけで、2017年から5年間、常総市にある沼川のすこやかさと水質の変化を調べてきた。今回は引き続き、次の3つの研究を行った。①コロナ禍での外出自粛期間が、水辺の環境や水質に与えた影響を調べる。②常総市水害の後、(2018年からは特に大規模に行われてきた)鬼怒川の工事が2021年完了した。堤防や川底を整備したことが、鬼怒川の水辺や水質に与えた影響を調べる。③毎年調査地点のひとつとしている菅生沼は冬は白鳥が飛来し、過去の研究で「水辺のすこやかさ」1位を獲得し続けている。ところが、水質だけを見ると菅生沼の水は汚れていることがわかってきた。菅生沼の水質汚染の原因を、探りたいと考えた。

研究の実際

基本調査の方法

 今回の調査は2020年5月、10月、2021年2月、6月の4回行った。場所は、谷津沼(水の流れはない)、菅生沼(緩やかな水の流れがある)、鬼怒川(豊水橋付近)、小貝川(福岡ぜき)の4か所だ。
 まず「水辺のすこやかさ指標」(霞ケ浦環境科学センター)を参考に、4か所の水辺の環境を「自然な姿」「豊かな生き物」「水のきれいさ」「快適な水辺」「地域とのつながり」の5つの指標から評価した。2017年から毎年、同じ指標で4か所を順位づけしているが、今回も続けた。
 4か所では毎回水質調査も行い、イオン濃度としてCOD(化学的酸素要求量)、NO2-N(亜硝酸態窒素)、NO3-N(硝酸態窒素)、NH4-N(アンモニア態窒素)の量をパックテストを使って調べた。いずれも量が増えるほど水質は悪い評価となる。pH値(水素イオン濃度)はpH試験紙で調べ、透視度も自作の透視度計で測定した。さらに調査地点の水を採取後2~3日置き、顕微鏡でプランクトンの量を観察した。

①コロナ禍の外出自粛期間による影響の調査方法

 2020年5月の調査を「自粛中」、2020年10月、2021年2月と6月の調査を「解除後」、過去2017~2019年の調査を「自粛前」として、基本調査の結果を比べ分析した。

②鬼怒川の工事による影響の調査方法

 鬼怒川での2017年の調査を「工事前」、2018〜2021年2月の調査を「工事中」、2021年6月の調査を「工事後」として、基本調査の結果を比べ分析した。

③菅生沼の水質汚染源の調査方法

 飛来する白鳥のふんが菅生沼汚染の原因ではないかと予想したが、白鳥がいない春や夏でも汚れている。菅生沼には緩やかな流れがあるから、これはおかしい。そこで、上流の川を調べることにした。菅生沼の北側に位置する飯沼川(工業団地入口付近、幸田排水機場)と江川(工業団地入口付近)の水質を調べた。

①コロナ禍での外出自粛による影響の調査結果

 水質の変化を知るためまず透視度を見ると、自粛前2018年5月はすべての沼川で透視度が低く、落ち込んでいた。鬼怒川と小貝川の自粛期間中の透視度は低く、解除後に高くなった。谷津沼と菅生沼の自粛期間中の透視度は自粛前より高かった。
 pH値を見ると、谷津沼は毎回、他の沼川よりもアルカリ性が強い。顕微鏡で観察すると、谷津沼は他の沼川よりも植物プランクトンが多く、植物プランクトンによる光合成が谷津沼の水を強いアルカリ性にすると考えられる。菅生沼と鬼怒川のpH値は、2019年5月の自粛期間中に高くなり(アルカリ性が高い方へ傾き)、解除後10月に低くなって(酸性が高い方へ傾いて)いた。
 CODの値を見ると今回も水の流れがない谷津沼が高く、他の沼川に比べて汚れていた。すべての沼川で透視度が低かった2018年5月は、CODの値も高かった。自粛期間以降、谷津沼と小貝川のCODは低くなり、水質は改善した。自粛期間に水質は改善すると予想していたが、谷津沼以外では自粛期間中にCODが高くなり、解除後に低くなっていた。
 NO2-N、NO3-N、NH4-Nの値は、今回も菅生沼で濃度が高く、谷津沼ではほとんど検出されなかった。見た目が汚れている谷津沼で検出されないのを不思議に思い、インターネットで調べると、谷津沼に多い植物プランクトンがNO2-NやNO3-Nを利用することがわかった。
 以上から、コロナ禍の外出自粛中に菅生沼、鬼怒川、小貝川の水質は悪化し、自粛解除後に改善した。家庭で過ごす時間が長くなったことで、生活排水の汚れが川へ流れ込んだことが原因と考えられる。

②鬼怒川の工事による影響の調査結果

 鬼怒川の水辺のすこやかさの得点は、調査開始の2017年が最も高く、次の年から下がって横ばいになっている。工事によってコンクリートで埋め立てられたため、自然な姿が失われたことがおもな原因だ。逆に水質は工事のおかげで改善し、工事完了後の2021年6月はCOD、NO2-N、NO3-N、NH4-Nの値がすべて低くなっている。土からの汚染がなくなったからだと考えられる。

③菅生沼の水質汚染源の調査結果

 江川のNO2-N、NO3-N、NH4-Nの濃度が、菅生沼や飯沼川よりも2~10倍高かった。このことから菅生沼が汚れているのは、江川から汚染された水が流れ込んでいるからだと明らかになった。江川は周辺に工業団地や田畑、源流付近にゴルフ場があることもわかった。
 またこれまでの研究で、菅生沼ではミシシッピアカミミガメなどの外来生物を多く観察してきた。ミシシッピアカミミガメは近年各地で増え、在来種であるニホンイシガメを駆逐したり、農業や水産業へ被害をもたらしたりしている。環境省や農林水産省が作成した外来種のリストでは、緊急対策外来種に指定されている。生態系を壊さないために、早めの対策が必要だ。

全体のまとめと感想

 2021年の調査地点4か所の水辺のすこやかさの点数は、上のチャートのとおりだ。順位は過去4年と変わらず、1位が菅生沼で、次いで鬼怒川、小貝川、谷津沼だった。2021年6〜8月のCODの測定値から判断した水質汚染度は、下のようになった。
 今回は、外出自粛中の生活排水が水質汚染の原因になるという結果から、人々の生活と自然環境は強く結びついていると改めて感じた。引き続き沼川の水辺の環境を調査し、モニタリングしていきたい。菅生沼の水質改善や外来生物の対策方法についても研究したい。

指導について

常総市立水海道西中学校 土戸 伸俊

 本研究は、常総市の沼や川(菅生沼・谷津沼・小貝川・鬼怒川)について、自然な姿、豊かな生き物、水のきれいさ、快適な水辺、地域とのつながりを調べたものです。地域の沼や川に興味をもち、定期的に各地を巡り、根気強く水の採取や分析を行いました。5年間継続して研究していることで、季節による環境の変化、自然災害や人が環境に与える影響について、改めて考えさせられるものとなりました。
 今回の受賞を受けて、今後もさらに地域の自然環境に目を向けて、探究していけるような生徒の育成に励んでいきたいと思います。最後に、水中にすむプランクトンなどについて教えて頂いた、霞ケ浦環境科学センターや茨城県自然博物館の職員の方々にもこの場を借りてお礼申し上げます。この5年間の研究で学んだことを活かし、さらなる継続研究の成果が出ることを願っております。

審査評

[審査員] 田中 史人

 本研究は、小学校5年生の時に霞ヶ浦の水質やプランクトン調査を行ったことがきっかけとなり始まりました。常総市にある沼川の水辺のすこやかさ指標と水質の変化を5年間に継続して調査しています。目的から結果を予想し、調査結果をもとに考察しています。
 コロナ禍での外出自粛が水質に与える影響では、自粛期間中のほうが以前に比べ水質が悪くなり、自粛解除後にpH値やCOD値など水質が改善され良くなりました。継続して調査を行っていたことで考察につなげることができました。平成27年、関東・東北豪雨による鬼怒川決壊による水害がありました。その後、堤防工事によりコンクリートの部分が増え自然環境が減少した一方で、水がきれいになるなどの考察を導いています。「常総市の水辺の環境マップ」を作成し、それぞれの沼川の水質をまとめるなどその努力は高く評価されました。
 引き続きSDGs等も視野に入れ、私たち身の回りの生活環境の変化とそれにともなう水質等の調査を継続し、さらに研究を発展させていくことに期待します。

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