第63回入賞作品 中学校の部
オリンパス特別賞

スミレの繁殖戦略

オリンパス特別賞

新潟県魚沼市立湯之谷中学校 1年
星 万潤
  • 新潟県魚沼市立湯之谷中学校 1年
    星 万潤
  • 第63回入賞作品
    中学校の部
    オリンパス特別賞

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研究のきっかけ

 小学生のころから植物に興味があり、観察してきた。小学4年生のスミレの研究で、いつまでも花が開かないつぼみが種子になっていることに気がついた。調べてみると、つぼみだと思っていたものは「閉鎖花」だった。閉鎖花は、花冠が開かず自家受粉で種子を実らせるという。観察を続けると閉鎖花は花が終わった6〜11月近くまで、種子を作って蒔き続けることがわかった。
 以前、観察のために葉を取り、閉鎖花だけにしたスミレを押し花にしようとしたことがあった。キッチンペーパーに挟み乾燥させ、1か月後に台紙に移そうと開いたら、小さいものから大きいものまですべての閉鎖花の種子が弾け飛んでしまった。大きさが違っても、すべて弾けて種子を飛ばす閉鎖花。スミレはどのように子孫を残し、命をつないでいくのか。命のために閉鎖花がどんな働きをしているのか、研究を始めた。

閉鎖花について

 スミレはスミレ科スミレ属の多年草、畑や道ばたの日当たりのよい所に生える高さ10㎝ほどの小さな野草だ。スミレは第1段階として4〜6月に花を咲かせ、蜜を吸いにきた虫の助けを借りて受粉、結実する。第2段階として6〜10月末ごろまで閉鎖花を付け、自家受粉で種子を作っては弾き飛ばし続ける。
 閉鎖花は下向きに付いてから少しずつ横向きになり、90度になった時にそのままの角度で緑色から黄色に変わる。その後、茎をくねらせながら真上を向いた時は弾ける直前だ。上を向いたら再び横へ角度を下げ、サヤが大きく縦3つに分かれる。1時間ほどするとサヤがそり返り、種子がサヤから半分以上出てあふれそうになる。2時間ほど経つと種子が減り(理由はわからない)、4時間ほど経ったころ、茎が静かに揺れて一瞬のうちに種子が弾き出されて飛んでいく。種子は1.5mmサイズで弾き出されてから時間が経つと全体に茶色になり、少し尖ったほうにクリーム色の模様がある。
 完熟した弾き出された種子は長い休眠を経て、翌年発芽するとされている。実際これまでの経験で、完熟した種子はすぐに蒔いてもなかなか発芽しなかった。実験のため採取してすぐ発芽させるには、未成熟の種子がよいことから、閉鎖花の首の角度から成熟度を5段階に分けて成熟度の基準を決めた。


左から角度1、角度2、角度3、角度4、角度5の閉鎖花、右へいくほど成熟

実験や観察の実際

実験1と観察1

 押し花を作る時、大きさや成熟度に関わらずすべての閉鎖花の種子が弾け飛んだ理由がわからなかった。考えられるのは、「乾燥によるもの」「水分や養分が届かなくなると本能的に種子を散布する」「どんな環境の変化にも対応する力を持っている」などだ。
 実験1では、弾ける理由が乾燥なのかを確かめた。
 閉鎖花はすべて、角度5以下のものを使って実験した。A-1は閉鎖花の花の部分だけを3個、湿った砂と一緒にフリーザーバッグに入れ、冷蔵庫で1週間保存した。A-2は茎が付いた閉鎖花3個を、湿った砂の入ったフリーザーバッグに入れ、冷蔵庫で1週間保存した。Bは茎の付いた閉鎖花3個をティッシュペーパーで包み、常温で1週間保存した。
 その結果、A-1は全く変化が見られず、弾ける様子もなかった。A-2は黄緑色に変わっていたが、サヤは開いていなかった。Bはサヤが大きく3つに割れていたが種子は収まったままだった。サヤが割れたのは乾燥によるものと考えられるが、弾けるのには乾燥以外の理由があるのだろう。
 Bのサヤが割れたのはサヤが縮むのか、伸びるのか、引っ張るのか、押すのか、閉鎖花を分解して詳しく観察してみた。すると、下の図のように種子を遠くへ飛ばす仕組みがあった。


種子は乾燥だけでは飛びばず、舟形のサヤが底のほうから潰れることで押し出す

実験2〜3

 未成熟の種子をすぐ発芽させるには、どの成熟段階がよいのかを調べてみた。角度1〜5と異なる成熟度の閉鎖花を茎ごと切り取り、4〜5日後に種を弾き出させる。採取したそれぞれの種子を植木鉢に蒔き、発芽率を調べた(この実験を5回行った)。角度1の閉鎖花は弾けず種子が取れなかった。角度2〜5はすべて弾け、種子が発芽した。角度2の種子は発芽率32%、角度3は発芽率58%、角度4は発芽率84%、角度5は発芽率68%だった。
 成長途中で切り取られた閉鎖花は危険を感じ、種を弾き出して発芽させたのではないか。スミレは万一の環境の変化に備えている可能性がある。
 並行してサヤが閉じる寸前の完熟した種も採取して蒔いてみた。すると予想に反し、10個のうち7個が発芽した。休眠に入る前だったのか。それとも危険に備え、ひとつの閉鎖花に休眠する種子としない種子があるのか。サヤごとに種子を分けて植木鉢に蒔き確かめたが、すべてのサヤの種子が発芽した。休眠する種子、しない種子の区別はない。


閉鎖花のサヤに収まった種子

実験4〜7

 完熟の種子が休眠に入るのは、乾燥のせいなのか。7月25日に採取した完熟種子を1か月、風通しのよい常温の場所で保管した後、植木鉢に蒔いてみた。比較対象として、完熟直後に採取した種子も同じように蒔いてみる。この実験を3回行った。すると、完熟直後の種は半分以上が発芽したが、1か月置いた種は発芽しなかった。完熟直後はまだ休眠に入っていないことになる。
 種子は乾燥することで休眠するなら、どのくらいで休眠に入るのか。同じ閉鎖花から飛び散った完熟種子を10日間、毎日3個ずつ植木鉢に蒔いてみた。すると、1日目に蒔いたものが1週間後に発芽し、3日目に蒔いたものが9日後に発芽した。残りは全く発芽しなかった。
 何のための休眠なのか、何が起こって休眠に入るのか。自然の土に落ちたらどうなるのか、ひとつの閉鎖花のすべての完熟種子32個を庭の土に蒔いて、土も被せず発芽するかどうかも確かめてみた。すると、16個の種が発芽したが、夏の暑い日差しの下ですぐに干からびた。発芽しても生き残れないなら、適切な時期に発芽しなければならないし、発芽3条件が揃っても発芽しない強い意志が必要だ(それが休眠ということか)。
 未成熟の種子でも乾燥期間があれば休眠し、発芽しないのか。1か月ほど保存した角度1〜5の未成熟の種子を、それぞれ別の植木鉢に蒔くと、どれも発芽しなかった。種子が乾燥し、外側の皮が硬くなれば発芽はしない。

観察2〜3

 成熟した種子を自然乾燥させる過程で、表面の様子に変化があるのか、顕微鏡で観察した。種子の大きさはあまり変わらなかったが、白いコブのようなものが縮まって硬く変化していた。調べるとコブはエライオソームでアリの好物だった。アリがエイラオソームを舐めるため種子を巣に運ぶことはよく知られ、スミレはアリを利用している。そのエライオソームが種子に蓋をするように硬くなることで、種子は休眠状態に入るのではないか。
 サヤに入った種子も観察すると、エライオソームは下部にあり、種子はそこからサヤとつながっていた。種子はエライオソームを通して栄養や水分を得ていると考えられる。栄養や水分が満たされると栄養管が閉ざされ、休眠体制に移行するのだと思う。

指導について

長岡市立富曽亀小学校 中島 稔

 星万潤さんは、植物の繁殖戦略をテーマに、カラスビシャク、ネナシカズラなど、毎年、対象物を変えて研究してきました。今回は、小学校4年生で行った、スミレの研究の際に生じた「閉鎖花」に関する疑問を解決するために研究を深めたものです。閉鎖花のはじける条件を調べるために、乾燥したもの、湿らせたもので比較実験を行ったり、閉鎖花を分解してはじける様子を観察したりしました。顕微鏡を駆使し、エライオソームの働きを追究したところが大変興味深いものになっています。私からは、完熟した種子の発芽について、気象条件、はじけ飛ぶことによる散布とアリによる散布、休眠とエライオソームとの関係から考察することを助言し、研究成果をスミレの「三つの繁殖戦略」としてまとめることを指導しました。
 今回の受賞を受けて、今後もさらに植物の繁殖戦略について粘り強く研究し、植物の未知なる多様性を明らかにしていってほしいと思います。

審査評

[審査員] 邑田 仁

 この研究はスミレ類の特徴としてよく知られている、閉鎖花による種子の形成と散布および休眠についての実験観察結果です。果実や種子の成熟程度を、果実の角度を指標として段階に分けて捉えることにより、様々な変化を客観的に示すことに成功しています。観察結果は顕微鏡写真を含んだ写真により、はっきりと記録されており、このことが説明を助けています。一方で、文章による説明では、同じような結果や考察が、時間を追って繰り返されているところがあり、研究の筋がぼやけているように思います。問いかけや実験の順序にかかわらず、何が明らかになったかというテーマごとにまとめるのがよいのではないでしょうか。また、用語を的確に使用すること(たとえば「ガク」は花の一部なので、「ガクが閉鎖花より長い」とは言えないでしょう)、あいまいな考察を補完するような実験を行うこと(たとえば、エラエオソームを各段階で取り除いたら休眠に影響するかどうか)により、説得力が増すと思います。

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