「宮崎は緑が多く、空気も水もきれいだ」と言われる。昨年は市内の川の水のプランクトンの生息状況を調べたが、予想以上に、汚染(おせん)が進んでいると感じた。今年はマツの葉の気孔(きこう)を観察することで、空気(大気)が本当にきれいなのかを調べることにした。
《マツの葉の気孔》
他の植物とちがって陥没(かんぼつ)している。さらに気孔の入口には、マツヤニが分泌(ぶんぴつ)されているので、空気中の汚染物質は「外呼吸口」という所にたまりやすい。実際に顕微(けんび)鏡で見ると、車の通りの多い場所のマツでは、気孔の中に黒いススのようなものが観察できる。
《汚染度(率)》
顕微鏡の視野に入った気孔のうち「よごれた気孔の数」と「きれいな気孔の数」を調べ、そのマツのある場所の空気の汚染度(率、%)を計算する。視野に入る気孔の数は倍率70倍で120個ほど。
汚染度=(よごれた気孔の数/見えた気孔の数)×100
《採集条件》
市内の「一ツ葉松林」を通る道路沿いに10カ所、さらに市中心部の護国神社1カ所を選び、それぞれに採集する1本のマツを決めた。マツの葉の採集部位は道路側の低い枝道路側の高い枝道路反対側(内側)の低い枝道路反対側(内側)の高い枝とした。低い枝は高さ1m以下、高い枝は高さ1.7~2mの範囲。
追究1:どの場所のマツの汚染度が高いか
《結果と考察》
松林の道路沿い10カ所のうち汚染度が高かったのはF(病院の物品はん入口)51.5%、D(交差点そば)36.0%、E(同)21.9%。いずれも駐車場にも近い。交通量が関係していると思われるが、Fでの車の通行量は少ない。物品はん入のトラックが多いので、ディーゼル車のはい気が問題か。それとも駐てい車が多いことが関係するのだろうか。K(護国神社の本殿横のマツ)が76.8%と、最も高かった。神社横の道路はふだんから車の通行量が多く、朝夕はかなり渋滞する。
追究2:道路に近いと、やはり汚染されやすい?
《結果と考察》
道路に近いB、D、G、I地点の方が、道路から50m松林に入った地点(C、E、H、J)のマツよりも汚染度が高い。同じ50m松林に入った地点でもC、E、Hは海からの強い潮風が吹くと、道路よりも風下になる。道路のはい気ガスの流れに影響しているかもしれない。
追究3:1本のマツでは、どの部位の汚染度が高いか?
《結果と考察》
木の汚染度を調べるのによいのは「道路側の低い枝」と本にはあったが、調査したA~Kのうち、その通りに「道路側の低い枝」が他の部位より最も高かったのはEだけだった。C、D、I、Jでは「道路反対側(内側)の低い枝」が最も高くなっていた。 逆に「道路側の低い枝」の汚染度が最も低かったのはF、G、Hだった。もし本の通りに「道路側の低い枝」だけで採集していたら、汚染度が69.6%も変わるところがあり、結果はかなりちがったものになっていた。
追究4:護国神社のマツは、採集部位によって汚染度がちがうか?
《結果と考察》
一ツ葉松林の汚染度は「低い枝」「道路反対側」の方が高いが、護国神社のマツは「高い枝」「道路側」の方が高い。よごれた空気が一ツ葉松林の道路から舞い上がり、林を越えてこのマツにたどり着いたのか。学校近くにあるマツの気孔が、こんなにもよごれているなんてショックだ。
追究5:交通量が多いと汚染度は高くなるか?ディーゼル車の交通量と汚染度の関係は?
《結果と考察》
県の交通量調査(平成17年、平日12時間)では、一ツ葉松林の方が護国神社横よりも3500台も多い。ほとんどがディーゼル車と思われるバスと貨物の交通量や、交通割合も一ツ葉松林の方が多い。しかし汚染度の平均は一ツ葉松林が17.7%で、護国神社横が76.8%とかなり高い。神社の反対側に高いビルや住宅がたくさんあるので、よごれた空気がたまりやすいためだろうか。
追究6:汚染度が高い葉は気孔が小さく、数も多いか?
《結果と考察》
顕微鏡で観察中に感じた疑問だ。採集したサンプル(176個)の気孔数の最も多い順に30個、最も少ない順に30個選び、それぞれ平均汚染度を出した。
さらに、汚染度の最も高いものから順に30個、最も低いものから順に30個選び、それぞれ平均気孔数を出した。その結果やはり、汚染度の高い方が気孔数も多い。
また気孔の様子を記録した観察シートを見ると、汚染度の高いマツの葉の気孔は小さく、数が多くなっている。それだけではなく、気孔の並び方も不規則に見える。汚染されずにきれいな葉の気孔はつぶがそろい、間かくもほぼ同じだが、きたない葉の気孔はそうではなかった。気孔がなくなった跡に、ススがうっすらと広がっているものも観察された。
ぎ問に思ったこと
① | どうして汚染度の高いマツの気孔はつぶが小さくて、数が多くなるのか。より多くの空気を取り入れるために、新しい葉を出す時に気孔の数を増やすのではないか。これは苦しい環境(かんきょう)に適応しようという、マツの進化ではないか。 |
② | マツが1度取り込んだ汚染物質は、蒸散(じょうさん)の働きや雨などで流されたりして、外に出て行くことができるのだろうか。 |
③ | マツヤニは、汚染物質をどのようにしてくっつけるのか。これを使って有害物質を閉じ込め、空気をきれいにできるのではないか。 |
④ | マツは、どのくらいの汚染度になると枯れてしまうのか。顕微鏡で見ると真っ黒によごれていても、肉眼では青々と元気そうだ。残ったわずかな気孔で青々としているのかもしれないが、これよりもっと気孔がつまると、どうなるのか。 |
おわりに
マツがどんどん枯れているという。汚染物質によって気孔がつまり、枯れているマツもあるのではないか。黒いススでつまった気孔。マツは気孔の数を増やすことで、一生けん命、生き残りをかけている。これはマツだけではなく、ぼくたちの健康の問題でもある。マツのためにも、ぼくらのためにも、きれいな空気を取りもどしたい。
審査評[審査員] 星野昌治
地球環境が汚染されつつあることは、多くの人が認識しているところです。しかし、具体的にどのような汚染が生じ、そのためにどのような対策を講じなければならないかに関しては、それほど深く 認識されていないのが現状です。竹之前槙太郎君は、自分の住む地域に目を向け、昨年は、身近な川の汚染について、「プランクトンの生息状況」を研究しました。その成果を基に、今年は、数十カ所の地域の松の気孔を観察して、大気の汚染の状況を研究しました。松の気孔は他の植物と違って陥没していて、外呼吸口に汚染物が溜まりやすいことに目を付け、地域の松の汚染度(汚染率=汚れた気孔の数÷見えた気孔の数×100)を調べました。松の細い葉の断面を切り取り、素早く気孔の標本を作るのは大変な苦労でした。顕微鏡で観察して数えた気孔の数は、何と1万個を超えたということです。また、松の気孔の汚染状況について、6つの追究の視点を設けて観察し、エクセルを使ってデータを処理し考察しています。自分が住む身近な環境から問題を見つけ、先生の協力や友達と協働して丹念に調べる姿勢は大変立派であり、本賞に相応しい優れた研究でした。
指導について宮崎市宮崎科学技術館 学習指導員 緒方東五
車が急速に増加した「宮崎の空気はきれいだろうか」という疑問が研究のきっかけです。
研究は、マツの気孔の入口部分にたまった空気中の細かな汚れ(ディーゼル車の排気粒子など)を顕微鏡で観察することから始まりました。予備観察をする中で、『黒いススのような汚れ物質でふさがれた気孔』を観察したときのショックが、この研究に拍車をかけたようです。資料採集に当たっては、採集場所・採集部位(高さ、向き)・気象条件等、観察結果として細かな関係をまとめるための工夫に、アドバイス以上のものがあり、大変感心させられました。また、マツの葉176本の観察標本を作り1万個以上の気孔を観察し、それをまとめるに当たり、家族の協力無くしてでき得なかったでしょう。
最後に生まれた『汚れた空気にさらされたマツの葉は気孔の数が増えているのは、新しい環境への適応ではないか?』という疑問を、ぜひ次の研究のテーマとしてください。