研究の動機
夏になると、茨城県沿岸で、季節来遊魚が数多く確認できる。季節来遊魚とは、暖かい海に生息している魚が、黒潮や台風の影響で、茨城県沿岸に到達し、越冬できずに死滅してしまう魚のことである。しかし、黒潮が茨城県から遠くを流れていても、台風が1度も来ない年でも、毎年、季節来遊魚が採取できた経験から、黒潮本体とは別の流れがあるのではないかと調べたところ、黒潮本体から分離した「暖水舌」という潮の流れがあるという論文を見つけた。論文では、夏に「暖水舌」の発生は極めて少ないと書かれていたが、7月には黒潮に含まれる生き物である季節来遊魚が採取できていることから、黒潮は「暖水舌の発生」によって茨城県沿岸に到達していると仮説を立てた。
暖水舌の発生を確認するための指標として、季節来遊魚の到達を確認するとともに、季節来遊魚の到達前後の表面海水温度を「海洋速報」より調査し、海面温度のスポット的な上昇が確認できれば、暖水舌が発生した可能性が大きくなると考え、過去3年分の採取記録をもとに本調査に取り組んだ。
結論と感想
結果としては、季節来遊魚を確認した前後の海面温度は、周辺海面温度より上昇しているスポットが確認でき、暖水舌の発生が示唆された。なぜ、そのスポットが、周辺より海面温度が高いのか、河川の流れ込みの場合、水温は低下するはずであるし、太陽の熱といっても、これだけ広範囲に温度の上昇をさせるとは考えにくい。暖水舌が発生したと考えるとスムーズに理解できる。また、暖水舌の発生以外にも、黒潮が流れ込む別のルートがある可能性を考えている。黒潮が派生した海流や鹿島灘は崖のように急激に深くなるため、海底部から上昇してくる黒潮の流れがあるかなど可能性は様々だ。今回に関しては暖水舌が発生した可能性が高いという結論に至った。