第64回入賞作品 小学校の部
文部科学大臣賞

世界に広まれ、「しがきん」の発こう力! ~日本初のにゅうさんきん図かん~

文部科学大臣賞

京都府同志社小学校 4年
清水 結香
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    清水 結香
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    小学校の部
    文部科学大臣賞

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研究の目的

 私には将来、「しがきん」ですべてのがんを治したいという大きな夢がある。
 私が住む滋賀県には、日本で最も古いおすし「ふなずし」がある。ふなずしは絶滅危惧種の琵琶湖固有種ニゴロブナと、ご飯を漬け込んで乳酸菌を発酵させる、世界でも滋賀県にしかない伝統食だ。「いい」と呼ばれるご飯部分には約200種類の乳酸菌が生きていて、その約200種の乳酸菌に「しがきん」という名前をつけた。

 そして、しがきんが「強い酸味と発酵力を持ち」、「胃酸にも負けず腸まで届いて」、「滋賀県の人たちの腸内環境を整えて免疫力を上げ」、「滋賀県の人たちのNK細胞を活性化させてがん細胞への攻撃を助けている」という仮説を立てて研究を始めた。
 なぜなら滋賀県は1990〜2015年の統計で平均寿命と健康寿命が全国1位、2021年の統計でもがんによる死亡率やがん罹患率が全国的に低い。今回の研究からは約200種のしがきんを同定し、がん細胞への攻撃を手助けする可能性がある、しがきん図鑑を作りたい。

小学3年生の研究

 コロナ禍でおうち時間が長くなった時、「はたらく細胞」というテレビアニメを観て乳酸菌を知った。アニメでは乳酸菌が人の体の細胞と協力して、がん細胞を攻撃するNK細胞を助けていた。なぜ乳酸菌はNK細胞を活性化させ、がん細胞への攻撃を助けるのか、不思議に思った。そこで人の体のなかで乳酸菌がどう働いて、がんという病気を防ぐのか調べることにした。
 しがきんの発酵力を調べる実験では、しがきんは「すっぱさ」「エサ(エサとする糖の種類)」「温度」「発酵」の4点でとても強いことがわかった。
 また、参考文献『ウイルスに負けない免疫力を鍛える!』(エイ出版社)から順天堂大学の竹田和由先生を知り、手紙を書いて指導をしていただいた。そして、しがきんはpH2.8(pHは酸性の度合いを表す値、7.0が中性で数値が低ければ低いほど酸性強度が高い)というとてもすっぱい乳酸を作ることで、他の菌が生きられない環境を作り出すことがわかった。また、生きたまま腸まで届いて免疫力を高めたり、NK細胞を活性化してがん細胞への攻撃を助けたりする可能性もあるという。

乳酸菌とは何か

乳酸菌の特徴

 乳酸菌は糖類を発酵して乳酸を作り出す、小さな生物のことだ。乳酸菌の特徴は7つある。
①グラム染色はおもに細菌類を色素で染色し、細菌を分類する基準のひとつ。細胞壁の構造を確かめ、細菌類を大きくふたつに分類する。乳酸菌は細胞壁が分厚いため、青く染まったままの陽性となる。
②乳酸菌の細胞の形は細長い桿菌もあり、丸い球菌もある。代表的な桿菌の乳酸菌にラクトバチルス属、代表的な球菌の乳酸菌にラクトコッカス属がある。
③微生物が持つカタラーゼは過酸化水素を水と酸素に変える酵素だ。乳酸菌は空気が少なくても生きていけるので、カタラーゼは持っていない。
④乳酸菌は芽胞(生きられない環境になった時に生きながらえるために作るカプセルのようなもの)を作らない。
⑤乳酸菌のほとんどは自分から動かない。
⑥乳酸菌は分解したブドウ糖の50%以上の乳酸を作る。乳酸菌がブドウ糖を発酵させるとpHを下げ、すっぱい環境が作り出される。
⑦乳酸菌は生きていくために糖類だけでなく、ビタミン類のナイアシンを必要とする。

乳酸菌の分類

 細菌には「門」「鋼」「目」「科」「属」「種」「株」の分類階級がある。最上位が門、最下位が株で、株まで調べるのはとても難しい。人間に例えると「世界中にいる約80億人が属」「日本人約1億人が種」「清水結香というひとりの個人が株」というイメージだ。
 2010年11月までに報告された乳酸菌の属は30を超え、2020年4月にはそのなかのラクトバチルス属が再分類されて、23の新しい属が提案されている。2020年3月時点でラクトバチルス属の細菌は261種あり、乳酸菌のなかでは大きな属となっている。

乳酸菌の同定と専門書

 乳酸菌の同定とは、名前がわからない乳酸菌が、これまで発見されているどの乳酸菌なのかを決める作業だ。乳酸菌を同定するために、16srRNAという遺伝子配列を分析する方法が利用されている。
 日本乳酸菌学会や腸内細菌学会の公式サイトや機関誌に、近年乳酸菌の培養や分析の研究が足りていないことや、新種の乳酸菌が増え続けていることが掲載されていた。そのせいか、滋賀県立図書館や国立国会図書館で調べても、乳酸菌の図鑑や専門書、乳酸菌の種の名前が掲載された日本語文献、論文は見つけられなかった。

しがきんの図鑑づくりの準備

 乳酸菌を分類するための専門書がないと、せっかくしがきんのなかから細菌を見つけても、それが何という菌なのかわからない。しがきんからNK細胞の活性化を高めてがん細胞の攻撃を手助けする乳酸菌を見つけ出すために、私がしがきんの図鑑を作ろうと思った。
 図鑑を作るためにはまず、しがきんを培養、生菌数を測定し、菌を同定することが必要だ。

培養と菌数の算出

 しがきんの培養実験は、小学3年生の研究でも協力いただいた株式会社ヤサカのアレルノン食品事業部研究施設でやらせていただいた。今回の実験で使ったサンプルは、小学3年生の研究で私が手作りしたふなずしだ。ニコロブナの塩漬けをご飯と一緒に漬け込んで、初夏から冬にかけて毎日水を替えて作った。
 株式会社ヤサカの中井重人さんに教えてもらいながら、培養実験を行った。純水や寒天などの材料から、しがきんを培養する培地を作ることから始め、プラスチックシャーレにMRS寒天培地を作った。
 次に、サンプルの私が手作りしたふなずしの「いい(ご飯)0.06g」へ生理食塩水を加えることで、サンプルを10倍、100倍、1000倍、1万倍、10万倍に薄めた検体を作った。MRS寒天培地に5種類の検体をそれぞれたらして植菌し、37度にセットしたインキュベーター(温度を一定に保つ装置)に24時間入れて培養した。
 培養の結果、100倍に薄めた検体のシャーレに1個のコロニー(培養して目に見える形にした菌の集まり)ができていた。しかし1万倍と10万倍の検体にコロニーはできず、10倍と1000倍にはコロニーかどうかわからない小さな点があるだけだった。検体を植菌する前、ガスコンロの火でコンラージ棒を焼いて滅菌した時に、よく冷まさなかったことが原因だと考えられる。
 この実験は失敗したため正確な数値を出すことはできないが、サンプルの生菌数は次の計算式で求める。
 コロニーの数×薄めた倍数=検体0.1ml中の生菌数
 通常、最もコロニーを数えやすい希釈率のシャーレを選んで算出する。今回は100倍の検体にコロニー1個しかできなかったのでコロニー1個×100倍=100、検体0.1ml中のしがきん生菌数は100ということになる。

同定のための試験①

 株式会社ヤサカは社内で菌の同定をしていなかったため、3年生時にもお世話になった順天堂大学の竹田先生に相談してみたところ、大手食品メーカーの乳酸菌研究所に協力いただけることになった。大手食品メーカー乳酸菌研究所へ「私が手作りしたふなずし」サンプルと、私が培養した希釈率100倍、希釈率1000倍のMRS寒天培地を届けると、コロニーがたくさん出ているMRS寒天培地5枚を作っていただけた。
 乳酸菌研究所からいただいた5枚のシャーレには、それぞれ1株だけのしがきんのコロニーができている。いったん培養してできたコロニーからひとつを選び、再度培養することを分離培養といい、分離培養すると1株だけのコロニーができる。分離培養は乳酸菌研究所の研究員、山本恵理さんと小泉明子さんにしていただいた。そして、いただいた5枚のうち、私が培養した希釈率100倍・培養温度37度から分離培養したものを「Mコロニー」、私が培養した希釈率1000倍・培養温度37度から分離培養したものを「SSコロニー」と呼ぶことにした。残り3枚は山本さんや小泉さんが培養から分離培養まで手がけたもので、サンプル冷凍「いい」希釈率100倍・培養温度37度の菌は「①-1・37℃コロニー」、サンプル冷凍「いいと魚」希釈率1万倍・培養温度37度は「①-2・37℃コロニー」、サンプル冷凍「いいと魚」希釈率10倍・培養温度30度は「①-2・30℃コロニー」と呼ぶことにした。

乳酸菌の簡易同定

 最初に、5株が乳酸菌の特徴を持っているのかどうか、調べてみた。まず株式会社ヤサカの指導で行ったのが、グラム染色だ。5株のコロニーの一部をそれぞれスライドガラスに固定し、青い染色液で染めた後に色を抜く。細胞壁が厚い陽性の菌ならば青、薄い陰性の菌ならば赤色に染まる。400倍の顕微鏡で観察すると、5株はすべて青く染まっていて、乳酸菌の特徴を備えていた。
 続いて大手食品メーカーの乳酸菌研究所の指導で、5株の細胞の形を確かめた。1000倍の顕微鏡で観察し、パソコンで写真を撮ると、5株は短桿菌、長桿菌、小桿菌、球桿菌、桿菌で、乳酸菌の特徴を備えていた。
 過酸化水素を酸素と水に変えるカタラーゼの有無を調べる試験は、株式会社ヤサカで行った。コロニーの一部をオキシドールに入れると陽性なら泡が出るが、5株はすべて陰性で、乳酸菌の特徴を備えていた。
 以上の3種の簡易同定試験の結果から、5株のしがきんは乳酸菌と同定できた。

同定のための試験②

しがきんはどの糖を食べているか

 最後に、菌名検索用アプリケーション「アピウェブ」の簡易同定キットを使って、5株のしがきんがラクトバチルス属の乳酸菌かどうかを調べてみた。5株のコロニーをキットを使ってさらに48時間培養すると、5株の菌が全49種類ある候補の糖のうち、どれをエサにして乳酸を作ったか、色でわかるようになる。その糖をエサにしたら黄色になり陽性、しなかったら紫色で陰性を表している。この実験も、株式会社ヤサカで行った。
 その結果、私の手作りしたふなずしから分離培養した5株のしがきんはすべて、49種の糖のうちそれぞれのエサを選んで発酵し、どれかで陽性反応を示していた。

同定結果

 アピウェブでそれぞれの菌がどの糖に陽性を示し、どの糖に陰性だったかを記入すると、その菌がアピウェブのデータベースにある菌種のどの分類群に近いか、同定結果が示される。「%ID」(同定確率)と「T」(T値・その菌種の典型的特徴にどれくらい近いか)で、信頼できる同定結果かどうかも判断でき、「%ID」は80以上で信頼でき、「T」は1に近いほど分類群の特徴が表れていることを示す。逆に、「T」が0に近くなるほど、その株が珍しい特徴を持っていることもわかる。私の手作りしたふなずしから分離培養した5株のしがきんを検索したところ、すべてラクトバチルス属の菌種と同定できた。完成した日本初の図鑑は写真のとおりだ。

指導について

株式会社ヤサカ 会長 八坂 正博

 清水結香さん、「文部科学大臣賞」誠におめでとうございます。2022年にお会いした時は「お米のヨーグルト」を発酵させる夏休みの講座でしたが、多種多様にある植物性乳酸菌の形質について矢継ぎ早な質問をされて困らされましたね。
 これは滋賀県の伝統食品の「ふなずし」の菌を応用した食品作りの体験講座でしたが有用性に着目され、その植物生乳酸菌を研究したいと思う意思は固く、2023年には研究の方向を菌群の同定へと示されました。
 DNAの世界のお話をした所、自分で道筋をつけて来られたのには驚かされました。
 私共の小さな培養室を提供した所、どんどん研究を進められたのには更に驚かされました。  乳酸菌を始め、菌の世界は謎が多くて分からない事ばかり。今後も研究に駒を進めて下さる事を願ってやみません。

審査評

[審査員] 小澤 紀美子

 文部科学大臣賞受賞おめでとうございます。病気で亡くなった親戚の方への自然免疫であるNK 細胞の活性化に寄与することをねらいとした小学校3年生から始めた研究です。
 ふなずしの飯(いい)に含まれる約200種類の乳酸菌「しがきん」があるらしいことから、自らふなずしをつくり、その飯(いい)から5菌株の「しがきん」の図鑑を策定している力作です。図鑑には、10の観点から探究して情報を掲載しています。その探究のプロセスで素晴らしいのは、研究の動機の裏付けとしてふなずしを多く食している滋賀県の統計的なデータに基づいて進めていること、追究の過程で出てくる培養、生菌数の測定などの概念と同定方法を明確にして進めていること、しがきんの図鑑が策定されていないことを国会図書館まで検索して無いことを確認していること、実験など指導や方法を民間の会社の方や大手の企業などの研究所の研究員や大学の先生からのアドバイスや協力を得ながら確実に推進しているパワーは素晴らしく、かつ失敗にも学び緻密な探究心には、作品を読みながら感嘆の声をあげてしまいました。さらに、琵琶湖の沖島を訪れた時に分けていただいた「ふなずし」の味を思いだしながら作品を読ませていただきました。

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