第64回入賞作品 小学校の部
オリンパス特別賞

「家族の健康を守る」

オリンパス特別賞

東京都港区立麻布小学校 6年
玉村 海俐
  • 東京都港区立麻布小学校 6年
    玉村 海俐
  • 第64回入賞作品
    小学校の部
    オリンパス特別賞

    オリンパス特別賞

研究のきっかけ

 僕の父は糖尿病の一歩手前の状態だが、長生きしてほしいと思っている。だから糖尿病を治す方法をインターネットで調べて血糖値の重要性と便利な道具を知り、父に勧めて血糖値の計測を始めた。また、幼い妹が風邪を引きやすいため、家のなかのバイ菌の実態を調べ、家族の健康を守ろうと思った。
 糖尿病は、血液中にブドウ糖が必要以上に滞留して体に障害を起こす病気だ。人間が活動する上で必要不可欠なブドウ糖は、常に血液中を流れている。すい臓から出るホルモンのインスリンが働かないと、糖は血液中にあふれてしまう。空腹時の血糖値(血液中のブドウ糖濃度のこと)が70〜109mg/dl、食後2時間時の血糖値が200mg/dl未満の人は糖尿病でなく正常、空腹時が110〜126mg/dl、食後2時間時が140〜200mg/dlの人は境界型、血糖値が境界型を超えると糖尿病と診断される。
 血糖が高い状態が続くと脳卒中、心筋梗塞、神経障害、腎障害、失明、その他の病気にかかりやすくなる。対処法は食事制限(特に糖分)や、運動で筋力をつけることだ。

血糖値を測る実験1

実験1の目的

 食べ物の種類や食べる順番、食事に費やす時間、運動の有無などで血糖値が変わるのかを確認する。どんな生活習慣が血糖値を上げにくいかを知り、実践する。

実験道具

 アボット社が提供するサービスで血糖値を測る。腕に装着したセンサーにスマートフォンをかざすと、スマートフォンにダウンロードされたアプリケーションに血糖値が記録される。センサーは血液中のブドウ糖ではなく間質液中の値を測り、不思議なほど痛みはない。間質液中の血糖値は数値の上下が少し遅れるが、血液と相関している。ただ、このサービスで分かるのはあくまで参考値で、数値を保証するものではないという。

実験1-①〜③の方法

 まず、父の血糖値を2週間ほど測り、安全性をテストしてから実験へと進んだ。父の血糖値を測った実験期間は約6週間だった。実験ではどんな場合に血糖値が上がるのか、その影響を確かめるため、1日数十回血糖値を測定して推移を見るようにした。
 実験1-①では毎日の昼食で父に違う食品を食べてもらい、血糖値の変化を記録した。ホウレン草150gとシャケフレーク90gを基本パックとし、毎昼食に必ず食べてもらう。基本セットに加え、日々違う食品を食べて血糖値を調べる。前日の夜は好きに食べてよいが、大食いや偏食はしない。次の日に影響が出るような運動もしない。朝は豆乳200mlだけを摂取して昼まで間食はせず、運動もしない。
 基本パックのみ、白米(ご飯)、玄米、パン、ポークジンジャー、ゆで卵、納豆、さんま、うなぎというように食品を変えながら、21日間血糖値の変化を調べた。
 実験1-②では、昼食をホウレン草150gとシャケフレーク90gの基本パック+白米(ご飯)に固定し、食べ方を変えた。まず、30分で普通に食べる場合、5分で早食いする場合、90分かけてゆっくり食べる場合の血糖値を比較した。次に昼食の時間を遅らせ、空腹時間を長くして比較した。食物繊維のワカメ(150g)とキノコ(150g)を食べてから、基本パック+白米(ご飯)を食べた場合の血糖値も調べた。
 実験1-③では、昼食をホウレン草150gとシャケフレーク90gの基本パック+白米(ご飯)に固定し、昼食前に十分な運動をした場合、昼食を食べた直後に運動した場合の血糖値をそれぞれ調べた。

実験1-①〜③から分かったこと

 あくまでこれは父の例で、万人に当てはまるわけではないが、起床後すぐは何も食べなくても血糖値が上がる(就寝中は90〜100、そこから10〜20は上がる)。運動直後は血糖値が上がり、時間が経つと下がっていく。運動でなくても、仕事などの影響で緊張感や闘争心が高まると血糖値は上がる。数日間、または数週間続けて糖分が余る状態になると、平均的に血糖値が上がるようだ。血糖値は食べ物だけでなく体調によって日々、変動する。
 ソバ、ラーメン、パン、白米(ご飯)、玄米の主食は明らかに血糖値を上げる。思っていた以上に、肉や魚は血糖値に影響しない。焼肉やうなぎも影響は少ない。ジュースはもちろん、味噌汁やたれ、だし汁などにも糖分は含まれ、油断しがちなので最も注意が必要。ところが今回、チョコレートはほとんど血糖値を上げなかった。
 早く食べてもゆっくり食べても、血糖値は155ほどまで上がった。空腹時間を20時間作ってから食べるとなんと、176まで上がった。やはり朝食は少しでも食べたほうがよさそうだ。ワカメやキノコの食物繊維を食べてからの昼食も、血糖値は156まで上がった。野菜やキノコは肉や魚よりも糖分が多いから、たくさん食べると血糖値を上げるのかもしれない。

バイ菌や細菌を調べる実験2〜3

実験2〜3の目的

 実験2では家のなかのどの場所がバイ菌が多く、危険な場所なのかを探った。実験3は飲料水の飲み残しに発生する細菌が時間の経過でどう変化するかを調べ、危険度を確認する。

実験道具

 菌がいるのかどうか判断するために、市販の寒天培地を使うことにした。綿棒でこすったり、スポイトで吸い取ったりして、家のあちこちの、または飲み残しの飲料水のなかの菌を採集する。採集したら綿棒やスポイトに余計な菌がつかないように注意しながら、培地へと移す。綿棒から菌を培地のシャーレに移す時は、アルコールランプで上昇気流を作ってから、培地をこするようにした。父の仕事部屋を夏休み限定で、菌の培養部屋にした。室温は常に30℃以上になるように設定した。
 実験2は家のなかからそのまま菌を採集した場合、消毒用アルコールで消毒した後に採集した場合、まくらを日干し、タオルを洗濯した後に採集した場合など、条件を変えたものも培養した。実験3は飲んでから1時間放置した場合、2時間放置した場合など、放置する時間を変えて培養した。実験3ではそのほか、麦茶の飲み残しににんにく、しょうが、からし、わさび、酢をそれぞれ入れた場合なども調べてみた。

実験2〜3から分かったこと

 トイレが汚いと思われがちだが、菌は家中にどこにでも存在していた。毎日使うテーブルやスマートフォン、鉛筆にもいた。プラスチックなどつるつるした素材でできたリモコンなどは、消毒することで菌が消える。革や木でできているものは、消毒しても多少減る程度だった。日干し、洗濯でもあまり菌は減らない。ただ、母がちょくちょく手入れしているまな板、日々消毒されているエレベーターのボタンなどは、菌が少なめだった。
 実験3では口をつけていない新品の麦茶やお茶も培養して比較したが、菌はいなかった。飲み残しの飲料水には口のなかの菌が混入して、ペットボトル、紙パックのどちらでも菌がいることがわかった。
 ただ例外はあるが、飲み残しを長時間放置すると、菌が消滅することがあることも分かった(ブラックコーヒー、コーラは3〜5時間後、ぶどうジュースは8〜12時間後に消滅)。コーヒーやぶどうに含まれるポリフェノールが影響しているのかもしれない。飲んでから30〜50時間常温で放置した麦茶とコーヒーミルクからは菌が消滅していたのに、冷蔵保存で放置した麦茶とコーヒーミルクはいつまでも菌が消えないという例もあり、驚いた。
 わさびや酢などの殺菌力は総合的に、わさび・からし>酢>にんにく・しょうがの順で殺菌力があった。

指導について

玉村剛史

 私に「血糖値計測器の被験者になってほしい」と言ってきた時には、少し戸惑いました。しかし、私の体を気遣ってのことと理解しました。毎年自由研究に没頭している姿を見てきたので、私も被験者として協力し、血糖値について一緒に調べることにしました。家族や知人を被験者に加えることによって、データ分析の精度を高めることにも努めました。食事以外の変数がデータに与える影響を最小化するために、息子が生活上の制約を私に課してくるのが、とても辛かったです。しかし結果、被験者全員が健康習慣を手にすることができ感謝しています。
 私としては、実験過程の厳密性を大切にするように導くことを心がけました。様々な菌の増殖について、それぞれ仮説をたて、条件を変えながら、息子はひとり黙々と何度も実験を繰り返していました。むしろ、真実を追求するための粘り強い姿勢をあらためて彼から教えられることになりました。

審査評

[審査員] 杉山 勇

 家族の体調を気遣う思いから、生活改善の根拠と必要性について追究した研究です。その中で、血糖値の変化と家の中や飲み残した飲料に関する菌に着目しました。
 血糖値の研究では、機器を用いて血糖値の変化を、影響があると予想した食べ物の種類や食べる時間、運動の視点で調べています。実験の安全性に配慮し、家族や協力者の4週間から6週間の結果をまとめました。臨床的な取り組みであることを踏まえながら、要因と結果について考察できています。また、生活の中の菌では、家の中の衛生状況を14か所について調べています。現状把握に留まらず、消毒後の実験も行い、生活改善につながるデータをとれています。飲料の飲み残しの菌の繁殖では12種類と多くの実験を行いました。結果を時間経過とともに分かりやすくまとめられています。
 データを根気よく収集、分析しながら、根拠をもとに、生活の改善に関わる提案する点がすばらしいです。家族の健康を守る強い思いを感じることができる研究です。

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