研究のきっかけ
理科の授業でモンシロチョウの育ち方を勉強して、幼虫が葉を食べる様子(食欲)に驚いた。
前回までの研究で分かったこと
◇パート1(2010年度):
生育の適温範囲(25~30)を超える、暑い8月に室内で飼育観察した。幼虫から成虫になったのは2匹だった。体長を測る時に、触りすぎてストレスを与えたのかもしれない。食べた量を記録するのに、鉛筆でキャベツを写し取ったため、鉛筆に含まれる鉛が幼虫に悪影響を与えたのかもしれない。
◇パート2(2011年度):
少し涼しい6月に室内で飼育観察した。エサとなるキャベツの葉を新鮮なものにし、あまり体に触らないようにするなど工夫したため、全ての幼虫が成虫になった。蛹(さなぎ)になる2~3日前に食べる量が減り、体長も小さくなった。1匹だけなら少ししか食べないが、9匹も集まったので、鉢植えのキャベツはほとんどなくなった。これだけの食欲があるから、キャベツを育てている人たちに“害虫”として退治されてしまうのだ。
◇パート3(2012年度):
11~12月の寒い中、室内と屋外で飼育観察した。幼虫は適温範囲以下の寒い中でも蛹になり、成虫になった。幼虫は、寒すぎるのと暑すぎるのとでは、どちらが得意なのか。寒い中では、蛹になるまでの期間が暑い中よりも長く、食べた量も多かった。
屋外の方が、温度や日照時間が自然の状態だったためか、室内よりも蛹になる数が多かった。そのため室内と屋外とで温度が同じで、日照時間だけを変えて飼育観察した。その結果、幼虫の成長には温度が関係し、日照時間は関係しないことが分かった。
パート4(2013年度)の研究
自然条件に近い屋外で幼虫を飼育観察し、幼虫が食べるエサの量や生育の様子を前回までの結果と比較する。
《方法》
飼育場所:屋外の自宅デッキと、その上に置いた高さ105cmの網台の2カ所とし、直射日光が当たらないように日よけを付けた。
幼虫:祖父母のキャベツ畑で採集したモンシロチョウの成虫を、大きな虫かごに入れる。その中の鉢植えキャベツに成虫が産み付けた卵から、幼虫が孵化するのを待つ。幼虫が観察できる大きさ(体長約5mm)になったら、1匹ずつ飼育ケースに入れて、飼育場所に置く。
エサのキャベツ:新鮮なものを使いたいので、店から買わず、種から育てたキャベツを使う。乾かないように、湿らせたキッチンペーパーをキャベツ1枚ずつに巻き、飼育ケースに入れる。
調べ方:幼虫が1日(24時間)に食べた量を知るため、毎日同じ時刻(午前5時ごろ)に、キャベツの葉と1cm四方に切り抜いた方眼紙とを一緒に写真に取る。後で写真をプリントし、食べた量(面積)を割り出す。幼虫の体長、現在の気温なども記録する。
観察期間と幼虫数:観察①6月9日ごろ。幼虫が成長せず失敗。観察②6月30日~7月17日(18日間)=デッキ6匹・網台5匹。観察③7月27日~8月5日(8日間)=デッキ5匹・網台5匹。③の幼虫は体長約10mmから飼育を始めた。
《結果》
うまく生育して蛹になったのは、②はデッキ3匹、網台3匹、③はデッキ1匹、網台1匹だった。ほかは途中で死んだ。死んだ幼虫が多いので、今回はデータの平均値は取らず、蛹になった幼虫のみで考えた。
◇食べた期間
幼虫がキャベツの葉を食べていた期間は観察②が7~9日間、観察③は6日間で、平均気温が高い②の方が、低い③よりも長かった。2011年6月の研究パート2(室内)では平均11.3日、12年11~12月の研究パート3の屋外では平均43日、室内では23日だった。
《考察》
中野日向子:今回のパート4は気温が高かったため、食べている期間が短くなり、パート3は逆に気温が低かったために、食べている期間が長くなった。変温動物だからではないか。今回の暑い時期③では10匹中2匹が蛹になり、パート3では10匹中半数以上が蛹になった。寒い時期の方が得意なのかもしれない。
中野陽:パート2(室内)の11.3日と比べても、今回の屋外②③は短い。パート2は適温範囲だったが、今回は適温外だったのでは。やはり変温動物なので、寒い時は成長が遅く(食べている期間が長く)なり、暑い時は成長が早く(食べている期間が短く)なるのだ。
◇食べた量
今回の観察②では36~60.0cm²、観察③では32.8~36.5cm²だった。パート2(室内)は36.9~92cm²(平均56.3cm²)、パート3の屋外は64.9~102.9cm²(同88.8cm²)、室内は63.8~123.4cm²(同88.3cm²)だった。
今回食べ方が少なかった幼虫の量は、パート2とほぼ同じだが、多かった幼虫の量はパート2の最高の1/2~1/3程度だ。パート2では蛹になる2~3日前に食欲が減っていたが、今回の観察②では、たくさん食べてすぐに蛹になった幼虫が多かった。
《考察》
中野日向子:今回は観察期間が短かった分、食べた量も少なかった。食べた期間と量には、何か関係がある。1日目にキャベツの葉を食べている幼虫のほとんどが蛹になっている。
中野陽:涼しい時期のパート2で食べた量36.9~92cm²に対し、暑い時期の今回は32.8~60.0cm²と少ない。熱中症の症状にも似て、そうなったのかも。
◇幼虫の大きさ
今回の観察②では体長23.9~28.3mm、観察③では24.6~27.5mmだった。パート2は25.2~31.2mm(平均29.1mm)、パート3の屋外は26.1~33.7mm(同30.5mm)、室内は29.5~33mm(同31.2mm)。今回とパート2を比べると、小さい幼虫の大きさは同じくらいだったが、大きい幼虫は3~7mmも小さかった。
《考察》
中野日向子:大きさの最低値も最高値も、今回が小さかった。期間が短く、食べた量も少なかったからかもしれない。
中野陽:今回はパート2よりも少し小さかった。食べる量が少なかったからだ。
◇総合的な比較
〈食欲と体長〉
今回と前回までを比べると、蛹になった幼虫の“食欲と体長”のグラフは、同じような形になった。今回はパート2よりも、食べた量も大きさも全体的に少なく、小さかったが、1日当たりの平均値でみると、今回(観察②と③の平均)の方が多く食べていた。
〈成長速度〉
1日当たりの平均成長は、今回の方がパート2よりも約1㎝大きく、成長速度が速かった。
《考察》
気温が高いほど食べる量は多く、1日当たりの成長も速かった。つまり「気温と食欲と成長の速度は正比例する」。
中野日向子:幼虫は暑さに耐えきれないので、早く蛹になりたい。だから、たくさん食べるのだ。ただし今回は、パート2と比べるために、6月に予定した観察①が失敗し、データが取れなかった。来年はもう一度観察し、確かめたい。
中野陽:幼虫は暑さが苦手だ。なるべく早く蛹になって、苦手な期間を乗り越えようと思うために、今回は幼虫でいる期間が短かったのだ。
感想
今年はモンシロチョウが飛び出す時期が、遅かった気がする。もう少し早く準備をしておけば、観察①のデータが取れたかもしれない。幼虫は暑さよりも、寒い方が得意なのかも。だから今年の猛暑では、成虫があまりいなかったのだ。畑で採集した成虫は、8月中旬に40近い日が続き全滅してしまった。このような暑い時期を、どのような状態で持ちこたえるのか。今後は幼虫だけでなく、卵や蛹、成虫についても調べたい。急激な温度変化も苦手のようなので、そのような条件を作って確かめたい。
審査評[審査員] 永田 学
研究を始めた時、日向子さんは3年生、陽さんは1年生でしたね。その時のモンシロチョウに対する気持ちと今の気持ちはどのように変わってきたのでしょう。協力して研究する素晴らしさと、継続して研究をすることで発見する不思議さ、そのもとは、きっとモンシロチョウに対する愛情でしょう。研究の様子から、そのことがたくさん伝わってきます。
「食欲」に注目しながら4年間の研究を進めていることが素晴らしいと思います。モンシロチョウをいろいろな視点から研究することもあるでしょうが、成虫となり、飛び交う姿と幼虫時の「食欲」を結びつけながら研究している点が、研究の価値を高めていると思います。パート5の方向も見えてきたようです。姉弟が協力して、新たな発見に向かっていってください。
指導について中野 高・麻衣子
「アオムシはよく食べるね。どれだけ食べるのか、ちょっと調べてみよう」と玄関先の虫かごを見ながらの会話から、4回目の夏が過ぎました。食欲は1cm×1cmの方眼紙を基準にます目を数え、ノギスで体長を測るというアナログな方法で観察を始めたため、観察とデータ処理に時間がかかり、初めは家族総出の作業となりました。しかし、4年目の今年は、子どもたちだけでその作業ができる程努力をし、根気と技術が身に着いたことに驚き、感動しました。
「観察を続けているとつらいこともあるけれど、結果を想像するとやめられない」と子どもたちは言います。この精神を身に着けられたことは、観察のデータや結果と共に子どもたちの大きな財産となるでしょう。これからもさまざまなことに挑戦していく子どもたちを見守り、エールを送りたいです。また、協力をいただきました皆様に、心より感謝を申し上げます。