研究のきっかけ
2017年の授業で、ふりこの勉強をした。ふりこが揺れる時間は何と関係があるのかを調べると、同じ長さのふりこなら1往復する時間が同じだとわかった。おもりが重かったり、揺れる角度が大きかったりすると早くなると思っていたが、予想と違う。調べないとわからないところがおもしろく、学んだことを生かして、自分たちでふりこ時計を作ってみたいと思った。
研究の準備
校長室にあるふりこ時計を貸してもらい、どんな仕組みで動いているのかを調べた。
するとふりこ時計の部品は、動力源のゼンマイ1個、歯車6個、歯車に付けられた円柱くん(側面で別の歯車の歯を受ける機構の円柱型歯車、かみ合うことで動きを伝える)5個、トゲトゲ歯車(がんぎ車という部品)1個、カチカチ君(ふりこに連結されたアンクルという部品)1個、ふりこ1個だった。
うず巻き状のバネであるゼンマイを巻くと、元へ戻ろうとする力が生まれる。その力で時計は動き始める。ゼンマイの力は歯車を動かしてがんぎ車やアンクル、ふりこへと伝わる。がんぎ車はゼンマイの力どおりに動こうとするが、船のいかりのような形をしたアンクルには左右にふたつツメがあり、ふりこの揺れに合わせてがんぎ車のトゲトゲを受けたり外したりする。アンクルが規則的にがんぎ車の回転を止めることで、正確な時が刻まれることがわかった。
研究の実際
がんぎ車とふりこ、アンクルを作ろう
がんぎ車をそのまままねて作るのは難しいので、校長室の時計にあった円柱くんを参考に、2枚のコルク円板の間に18本の柱を立てた円柱型のがんぎ車を作った。ふりことアンクルも作って動かすと、ふりこは一定時間で動くことはできたがすぐに止まった。アンクルはがんぎ車とかみ合わず、すぐにこわれてしまった。
円柱型がんぎ車(左)とスチール缶の外側に磁石を並べたがんぎ車(右)
電磁石の力でがんぎ車を止める
改善策として、アンクルを使わず、磁石と鉄の引き合う力や、磁石のS極とN極同士が反発し合う力を使えないかと考えた。理科の教科書を見ると、電気で磁力を出す電磁石というものがある。電磁石はボルトにコイルを巻き、コイルを電池につないで作る。実験で、電磁石ががんぎ車を止めたり進めたりできるのかを調べてみた。
まず、新しくスチール缶のがんぎ車を作った。ゼンマイの代わりに糸の先に下げた60gのおもりを使ってスチール缶を回し、電磁石とスチール缶の引き付け合う力で回転を止めることができるかどうかを調べた。
次にスチール缶の周りに外側がS極になるように磁石を並べて取り付け、電磁石のS極の力と退け合って回転が止まるかどうかを調べた。結果、どちらも確実に回転を止めることはできなかった。
S・N切り替え回路を作ろう
教科書で、電磁石がリニアモーターカーに使われていることを知った。本で調べると、ガイドウェイと呼ばれるリニアの誘導路には磁石のS極とN極が交互に取り付けられ、車両本体に付けられたS極とN極と引き合い反発することで浮上して進む。スチール缶にもS極とN極の磁石を交互に付け、ふりこの規則的な動きに合わせて電磁石のS極とN極を切り替えれば、がんぎ車を制御できるはずだと考えた。成功すれば、ゼンマイやおもりではない動力でふりこを動かし、アンクルなしでがんぎ車を制御することになる。
そして、下の黒板の図のようなS・N切り替え回路を作った。スチール缶にもS・N交互に磁石を取り付けて動かそうと試したが、タイミングが悪いと逆回転してしまう。そこで、スチール缶の周りに発砲スチロールで角度45度のギザギザを作って、S・N交互に磁石を付けた。45度に傾いたS極とN極の磁石に対して電磁石を垂直に近づけ、S・Nを切り替えるとスチール缶は右へ動き始めた。ただ、磁石と電磁石の位置が悪いと逆回転してしまい、注意が必要だった。
動き続けるふりこが完成
S・N切り替え回路を作動させるふりこにも課題があった。ふりこを動かし続けたいが、時間が経つと止まってしまう。指でタイミングよく押せば動き続けるため、指の働きを電磁石にさせたかった。ふりこのひもの部分に磁石を取り付けて、電磁石と反発させ、押され具合を調べた。定規やクリアファイルなど硬さの違うさまざまな素材でひもを作り、試してみた。そして、ひもの硬さが違う2つのふりこを用意した。
軟らかい素材で作ったふりこを「曲げ子」、硬い素材を「押し子」とし、曲げ子にはある程度重さのあるおもりを付ける。曲げ子が右へ振れて押し子に触れる時だけスイッチが入って電流が流れるようにし、電流が流れると押し子の磁石がその右にある電磁石に反発する。反発した押し子は左へ振れ、曲げ子を左へと押し込む。曲げ子が左へ振れて押し子と離れると電流が止まり、押し子の磁石が電磁石へ引っ張られる。この繰り返しなら曲げ子が押される時間も十分に生まれ、止まらないふりこを作ることができた。
しかし、この姉妹ふりこをS・N切り替え回路に取り付けたとたん、ショートしてふりこが動かなくなった。結局、S・N切り替え回路を使ってがんぎ車を動かすことはできなかった。
電磁石の力で物理的にがんぎ車を回す
最終的に、がんぎ車にギザギザを付け、姉妹ふりこの動きを利用して、物理的にがんぎ車を押す方法を考えた。姉妹ふりこと電磁石の右側に、もうひとつ押し子2号を追加して設置した。押し子2号にも磁石を付け、曲げ子の往復運動に合わせてスイッチが入る電磁石に反発させる。その力を使って直接、がんぎ車のギザギザを1歯ずつ押し回す。押し子2号の先端は、がんぎ車のギザギザを右へ押しつつ、戻る時は逆走させない形状に工夫した。
そのほか、歯車の代わりに採用したひも車の直径をどうするか、曲げ子の長さは何cmか、おもりの数はいくつかなど、正確な時を刻ませるためにさまざまな実験を重ねた。コイルの熱を測定したり、火花の出ないスイッチを考案したりして安全面も確かめ改善した上で、スムーズに動かすための最終調整を行った。こうして、1時間に数分のずれはあるものの、時を刻む電磁石式ふりこ時計が完成した。
感想
今回、ゼンマイやアンクルを使わず、電磁石の性質を利用して時計を動かす方法を発見した。難しかったのは、ふりこを揺らし続ける仕組みを考えることで、作ったものはいつも予想どおりに動かず、その度に作り直しては実験することの繰り返しだった。多少のずれはあるものの、時を刻む時計ができた時は本当にうれしかった。
[審査員] 小澤 紀美子
本研究は、5年生で学習した「ふりこの原理」を踏まえ、それを発展させて「電磁石式」の時計づくりを展開している作品です。この作品は、7人で協働して進め、校長室にある古いふりこ時計が廃棄されることから挑戦している作品でもあります。研究の方法として5つの方針を決め、意見の違いを乗り越えて代替案を考え、実験している展開の仕方は研究の王道で進めているともいえます。さらに「ふりこの原理」を調べるだけでなく円柱型歯車をつくるなどの実証実験も行い電磁石式ふりこ歯車まで追い込んでいく試行錯誤のプロセスは見事です。失敗も含め電磁石式に至るまで多角的に検討し、ギザギザ歯車を電磁石式で回す回路の設計、他の方法での実験による原理の解明などによって電磁石の力を上げることや引き合う力、反発する力などの調整しながらの展開に感動しました。さらに課題や実験、原理のプロセスをわかりやすく図示でまとめるなど高い作品として評価されました。今後も、皆さまがそれぞれの新たな次の課題にむかって研究を継続されることを期待しています。
伊奈町立小針小学校 阿久津 直人
自分たちで振り子時計を作ってみるという今回の研究は、一筋縄ではいかない挑戦でした。複雑な時計の仕組みをどのように再現するのか、子どもたちは一歩前進しては壁にぶつかり、日々試行錯誤を繰り返していました。行き詰まったときに原動力となったのは、仲間と力を合わせて探究し続ける心と、子どもたちがもつ柔軟な発想です。中でも「磁石の力で歯車を回せないか」というひらめきは、研究の方向性の決め手となりました。そして、電磁石のはたらきで振り子を動かす仕組みを発見することにつながったのです。苦労の末、振り子時計が狙い通りに動いたときは、みんなで喜びを分かち合いました。子どもたちが最後まで研究をやり遂げることができたのも、ご家庭からの温かい支援のおかげです。このたびの栄えある受賞を自信につなげ、今後も探究心と柔軟な発想を大切にしながら、更なる挑戦をしていってほしいと思います。