第63回をむかえた自然科学観察コンクールに応募していただいた小・中学生の作品を読む至福の時間は何事にも代えがたく、希望と感動の時を過ごすことができました。審査にあたり、まず、審査員が各自で応募作品を納得いくまで読み込み、最終審査会では審査員が一堂に会して意見を交わして、各賞を選びました。受賞された皆さまに、心からお祝いを申し上げます。
「持続可能な社会」への貢献を意識してSDGsに取り組んだ作品もありましたが、応募作品の基底には、自然環境や生き物の生態系にとどまらず、人と自然、人と地域、さらには人と環境との関係性や普段何気なく見ている現象の「不思議」に気づき、あるいは見逃している事象に「なぜ」という疑問を投げかけ、深く考察にいく過程や「ものがたり」的に展開している作品に感動を覚えました。疑問を自ら「問う」ことや専門性の高い方からの示唆を得る努力により多角的に科学的な視点から洞察していること、さらに実証実験の方法のための装置を自作し粘り強く試行錯誤し、科学的に考察し論理を深めている作品にとどまらず作品にまとめ、その成果を分かりやすく表現している作品に多く出会いました。失敗に学び新たな方法での解明、課題探究や問題解決能力に磨きをかけ、さらに知的好奇心を満開にして挑戦している姿勢に未来への希望を見出すことができました。来年も多くの作品が寄せられることを期待しています。
ネジバナの花序がなぜねじれているのかという疑問はポリネーションとの関係で興味をもたれていますが、最近の論文では、ねじれない花序の方が実がよくできる(受粉率が高い)という事実が発表されており、その謎は解明されていません。この研究も、なぜねじれているかという疑問から出発していますが、これまでにない2つの特色によりユニークな研究にまとまっています。1つは、花に良い香りがあるという、夜に花に来る昆虫をポリネーターとして利用する花の特徴に注目していること。もう1つは、夜間に活動するポリネーターに注目していることです。観察方法として自動撮影カメラの使用がとても有効でした。その結果、ネジバナというマイクロハビタット(微小環境)で、昆虫ばかりでなくクモやダンゴムシまで多様な生物が生活を営みながら交流し、ネジバナの送粉にも役立っているかもしれないという壮大な事実が浮かび上がってきました。精度を高めて行けば、さらにりっぱな論文になると期待されます。
文部科学大臣賞受賞おめでとうございます。「竹とんぼの羽の揚力と空気抵抗の研究」からはじまり、竹とんぼを紙飛行機に替えての研究です。紙飛行機は昔から日本では伝承遊び的に広まっている遊びですが、ゆったりと青空を飛ぶへそ紙飛行機の姿は魅力的です。中浜さんも祖父から父へ、そして父から伝えられ、そのゆったりとよく飛ぶ魅力的な姿を見事に科学的な視点で解明しています。へそ紙飛行機の翼に揚力、重力、さらに空気抵抗と回転力を自作の装置で測定しながらの飛行姿勢や軌跡の比較分析は素晴らしいです。コロナ感染症の広がりの中、自宅で実験装置を自作し、ち密に計測している姿には頭が下がりました。その努力は、サーキュレーターの風が安定的に均一的に吹くように設定するにとどまらず、仮説の設定も竹とんぼの研究の経験を踏まえて着実に実施しています。へそ紙飛行機T字型とV字型の比較による溝への揚力の働き、揚力バランスなど1枚の紙から生み出される飛行軌跡と緩みの関係など、紙飛行機の魅力を十分に伝える素晴らしい考察力に基づく論文です。
昨年、陸生植物の蒸散について調べたことから新たに水草の葉に興味を持ち、今回の研究につながりました。いくつもの疑問がわき、それらを確かめる実験を計画しては実施するというスタイルです。この研究では途中多くの失敗が記録されています。操作での失敗や計画の問題などですが、失敗を素直に受け止め、何がいけなかったのかを考え次の実験に生かしていくという粘り強さがみられました。一連の実験から、水草であるオオカナダモは光が当たると酸素を出し、その酸素は水に溶けにくく、光合成には赤い光が有効であるという考察がなされました。このことは高校の教科書などには書かれていることですが、小学生が自分の興味から実験的に自分の力でその事実に近付いたという点が評価されました。この研究では、もう一つの課題として顕微鏡で葉の細胞と葉緑体を観察しています。オオカナダモは葉の細胞層が薄く、切片を作らなくても観察可能な植物材料ですが、別の水草「バコパ」は同じようには観察できませんでした。どのような工夫をすればオオカナダモのような顕微鏡像が得られるかを考えてみると良いでしょう。
この研究はスミレ類の特徴としてよく知られている、閉鎖花による種子の形成と散布および休眠についての実験観察結果です。果実や種子の成熟程度を、果実の角度を指標として段階に分けて捉えることにより、様々な変化を客観的に示すことに成功しています。観察結果は顕微鏡写真を含んだ写真により、はっきりと記録されており、このことが説明を助けています。一方で、文章による説明では、同じような結果や考察が、時間を追って繰り返されているところがあり、研究の筋がぼやけているように思います。問いかけや実験の順序にかかわらず、何が明らかになったかというテーマごとにまとめるのがよいのではないでしょうか。また、用語を的確に使用すること(たとえば「ガク」は花の一部なので、「ガクが閉鎖花より長い」とは言えないでしょう)、あいまいな考察を補完するような実験を行うこと(たとえば、エラエオソームを各段階で取り除いたら休眠に影響するかどうか)により、説得力が増すと思います。
小学校の部 | 中学校の部 | 合計 | |
---|---|---|---|
応募校数 | 200 | 0 | 400 |
応募作品数 | 4800 | 2200 | 7400 |
応募校数 | 応募作品数 | |
---|---|---|
小 学 校 の 部 |
200 | 4800 |
中 学 校 の 部 |
0 | 2200 |
合 計 |
300 | 7400 |