富山県砺波市立 出町中学校

2009年
取材

全国大会での入賞を目指して生徒と共にチャレンジ

 取材を受けていただいた坪本吉史先生は、出町中学校に赴任して3年目。昨年度、初めて自然科学観察コンクール(第49回)に応募、学校奨励賞と指導奨励賞をダブル受賞した。応募した3作品のうち、鍋澤歩さんの『植物の葉はどうして水をはじくのか?』が3等賞、科学部脳の画像処理班の『錯覚から脳の画像処理を探る』が健闘賞(最終審査に残った作品)に選ばれている。どのように指導したのかをうかがった。

実績のある中学校を訪問

 昨年4月、坪本先生は念願の科学部顧問になったことをきっかけに「全国規模の科学コンクールでの入賞を目標にしよう」と心に決めた。とはいっても、わからないことだらけ。実際にはどんな作品が入賞しているのだろう? 科学部の部員たちと一緒に調べてみると、愛知県刈谷市の中学校の名前が何度も出てくることに気が付いた。 「ここの科学部はどんな雰囲気でどんな指導をしているのかを知りたくて、ホームページで連絡先を調べ、直接、電話をさしあげました」
  こうして6月半ば、坪本先生と科学部員たちは刈谷市の刈谷東中学校と雁が音中学校を訪問。両校の先生たちはテーマを見つけるコツや年間スケジュールなどの質問にていねいに答えてくれたという。
  「特に知りたかったのはテーマの選び方。自由研究というとタネ本をみてテーマを決めてくる子供がほとんどだからです。この時、『テーマとしてふさわしいのは、ノーベル賞をとった人でもやってみないとわからないことだ』というお話をうかがい、目からうろこでした」
  刈谷市で得たものは大きかった。ゴールがはっきり見えたし、レベルの高い入賞作品を実際に見せてもらったことで具体的にやるべきことをイメージできるようになった。
  理科室前には副賞のオリンパス顕微鏡も公開されていた

理科室前には副賞の
オリンパス顕微鏡も公開されていた

粘り強く重ねた追加実験

 『植物の葉はどうして水をはじくのか?』で3等賞に輝いた鍋澤歩さん(当時1年生)は科学部員ではないが、小学校の時に「ジュニア科学賞・とやま」を受賞したこともある期待の星。この賞は富山市出身の田中耕一さんがノーベル化学賞を受賞したことを記念して03年に創設されたものだ。
  鍋澤さんの作品は個人で行った夏休みの自由研究がベース。当初、『水のはじき方』というテーマを設定していたが、それを「植物の葉」に絞り込んでいった。同校では夏休みの自由研究はどの教科を選んでもいい。夏休み明けに作品展を開催、すべての自由研究を体育館に展示する。その中から、優れた作品をピックアップして砺波市科学作品展へ、さらに選抜されたものが富山県科学展覧会に出品される。鍋澤さんの作品は県展で優秀賞に選ばれたものの、最優秀にはならなかった。
  だが、坪本先生はあきらめなかった。シゼコンの応募締め切りは10月末日でまだ間にあう。市展に作品を出した後も「1カ月でこれだけのことをしてみよう」と追加実験を提案、それに応えて鍋澤さんは研究を深めていたからだ。
  「実験は土日に家で行い、放課後にそれをアドバイスするやりとりを何回も繰り返しました。彼女は助言に対していつもプラスアルファで返してくれました。私が言った以上のことをやってくれた。思い通りにいかずに悩む場面もあったようですが、粘り強くがんばってくれたと思います」

できる子のノートは美しい!?

 ここで理科室へと案内していただいた。廊下には鍋澤さんの3等賞入賞を紹介したコーナーがあり、副賞の顕微鏡も公開されていた。さらに、各クラスごとにファイルされたノートコーナーがある。これは坪本先生が十年来続けているユニークな手法だ。
  「授業の後、毎回、全員にノートを提出させて、その都度優秀な1枚を選んで教室に張り出しているんです。これはスキャナで読みこんでカラープリンターで出力したものです」
  ノートはいわゆる帳面ではなく、A4の専用シート。その日の授業のポイントをまとめるフリースペースのほか、「新たに生じた疑問」「今日の授業を振り返って」などを記入する欄も設けられている。掲示されたノートを見ることは生徒同士で刺激になり、また「今度は自分が」という励みにもなっている。現在、理科の授業を担当しているのは1年4クラス、2年2クラス。この6クラスすべてのノートを毎回チェックし、その日のベストの1枚を張り出し、ファイルを作ってストックしている。
  もうひとつ、坪本流の授業に予習は不要。「知識の再確認でなく、発見の喜びを感じてほしい。驚きをもって授業を受け止めてほしいからです。先入観なく聞いてもらい、振り返る時間を大切にしています」
  理科のノートは全員が毎時間提出。その中の優秀な1枚が掲示・保存される

理科のノートは全員が毎時間提出。
その中の優秀な1枚が掲示・保存される

新聞記事で最先端のトピックスを紹介

 自分たちの目の前のことだけでなく、広く世界に目を向けて視野を広げてほしいという願いから、新聞記事を素材に最先端の科学技術についても紹介。例えば、「国の事前審査撤廃へ 万能細胞研究へ規制緩和」のニュースをとりあげ、これからどんな技術が求められているかを問いかけた。
  「日本は科学技術が発達していて豊かですが、それを当たり前と思っているし、勉強への意欲も低いといわれていますよね。学級で話をする時も『何のために理科を勉強するのか』『将来、こんなことをしたい』と考える場をつくっていきたいと思います」
  今年の2月、東京・千代田区の如水会館で行われたシゼコンの表彰式では、お世話になった刈谷市・雁が音中学校の先生と科学部の部員たち(継続研究奨励賞)とうれしい再会を果たした。会場では時間を忘れて、他の入賞作品に見入った。どんな見せ方をすればいいのか、どんな野帳なのか。知りたいことはまだまだある。
  わからないことは素直に教えを求め、外に出て刺激を受ける。科学部としてもワンダーラボ(北陸電力エネルギー科学館)での実験教室に参加したり、坪本先生自身も「おもしろ実験 in 富山」という年に一度のイベントに参加するなど、外部の刺激に触れる努力は怠らない。
  「基本は自分自身が面白いと思える授業をすること。感情は伝わるので、僕がにこにこ楽しんで授業をすれば子供たちも安心して聞いてくれると思います」

科学部の研究はすでにスタート

 昨年度は惜しくも健闘賞だった科学部は、今年新たに5人の1年生を迎え、17人で活動を開始している。
  「今年の研究はもうスタートしてます。実は1月に1カ月かけて一人ひとつのテーマを決め、3月にはおうちの方も招いて中間発表会をしました。その中からテーマを絞り込んでグループ研究にするか、個人研究を継続するかを考えているところです」
  科学部員たちはどちらを選ぶのか。鍋澤さんに刺激を受けたまわりの生徒たちはどんなテーマに取り組むのか。坪本先生はひそかに期待しながら、「全国を目指してみない?」と理科少年・理科少女のやる気を刺激している。
  出町中学校の校訓は「天資養活 自他共栄」

出町中学校の校訓は「天資養活 自他共栄」

学校プロフィール

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富山県砺波市立 出町中学校
ホームページ
〒939-1366 富山県砺波市表町18-29
電話 0763-33-2329
1年=7クラス、2・3年=各6クラス
坪本吉史

坪本吉史先生(43歳)
1年生担任・科学部顧問

色鮮やかなチューリップ栽培で知られる富山県砺波市は、日本海に注ぐ庄川流域に広がる砺波平野に位置する。砺波チューリップ公園にもほど近い出町中学校は生徒総数675人の大規模校。部活動も盛んで、放課後の校庭は運動部の生徒たちで活気にあふれ、文化部の活動も毎日行われている。

学校取材レポート
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