長野県伊那市立伊那東小学校

2007年
取材

クラス全員で同じテーマを追いかけて

 

クラスの共同研究で2度の指導奨励賞

「その気になれば、子供たちは相当なことをやりとげます。クラスの皆で一つのことを追究することは、貴重な体験になるのではないでしょうか」 こう話す飯澤隆先生は教師歴26年のベテラン。第47回自然科学観察コンクールで佳作に輝いた『土笛の音のひみつをさぐる』は、昨年度に担任をした3年菊組の32人全員による共同研究だ。 「子供たちはみんな大喜びです。いただいた賞状は、授業参観日に校長から一人一人に手渡してもらいました」 自身も2度目の指導奨励賞を受賞。3年前(第45回)に最終選考に残った『箕輪西小学校周辺の野鳥とスズメの生活』(前任校の箕輪町立箕輪西小学校・コスモス学級)も、今回の『土笛の?』もともにクラスで一つのテーマを追いかけた作品だ。 「私はクラスでの取り組みをずっと行ってきました。共同研究を認めていただけないコンクールもあるので、今回の受賞は大変うれしいです。大人数でやっても研究は研究です。
子供の意欲を高めたり、科学に興味を持ってもらう手助けになると思います」
 

開校80周年を記念して建てられた
「なかよし」ブロンズ像

ドングリひろいから土笛作りへ

では、クラス全員が一つのテーマに関心を持つようにするためには、どんな点に心を配っているのだろうか。 「まず、時間をかけることです。こちらが教えるのではなく、少しずつ目を向けさせるようにして、子供たちが動きだすのを待ちます。自分たちで『やりたい』『やろう』と言い出すまでには時間がかかります。『不思議だな』と気付くにも時間が必要なんです」 『土笛の音のひみつをさぐる』の場合は2年・3年の2年間を受け持ったクラス。研究が完成したのは3年生の10月だが、最初のきっかけは2年生の秋のドングリひろいだった。 ひろったドングリを笛にして皆で鳴らして遊んでいたところ、1カ月ほどでひび割れてしまった。「粘土でも笛は作れるよ」という飯澤先生のひとことに皆は「やりたい!」とチャレンジすることを決めた。 「土笛は作るのは簡単ですが、奥が深い。吹く角度によっても音が出たり、出なかったりします。それぞれが工夫しながら、いくつもの土笛を作っていきました」

「なぜ音が出るのだろう」という疑問

やがて3年に進級。6月の音楽会で土笛の演奏をすることになった。 土笛は単音しか出せない。曲を演奏するには音が足りない。そこで、子供たちは考え始めた。「大きい笛は音が低い。小さい笛は音が高い」。そんな経験からさらに工夫を重ねて、無事に音楽会を終えた。 夏休みが明けたころ、ある子供が言った。「土笛ってどうして音が出るんだろう。棒をシュッと振ると音が出るけど、それと同じかな」 「私は『すごくいいことを考えたね。みんなの前で言ってごらん』とほめました。ほかの子供たちもこれを聞いて『なぜだろう』と考えるようになっていきました」 ころあいをみて自然科学観察コンクールを紹介したところ、子供たちは「挑戦してみたい」と意欲をみせた。「音の高さとかさ(容量)が関係しているのでは」と思いつくと、それぞれが自分の土笛を量ってデータを持ち寄る。実験しては考察。調べては考察を繰り返す。共同研究のメリットは一気にデータが集まること。クラス全体で約350個分の土笛のデータを集計することができ、10月末の締め切りに向けて研究は急ピッチで進んだ。

時間をかけること。考える場を作ること

関心が高まるまでじっくり待つ。それまでは決して急がないのが飯澤先生のスタイルだ。 「早急に進めるとついてこれない子供が出てきます。粘土をこねて土笛を作ったり、土笛をピーピー鳴らす時間を堪能させてあげることが大事です。たっぷり遊んでからでないと、科学する心は生まれません」 そして、タイミングをみはからってヒントを出す。発見や疑問が出てきたら、認めてほめてあげる。そのために心がけていることは、「毎日10分でも15分でもいい。朝の会でも総合の時間でもどこでもいいから、そのテーマについて“考える場をつくってあげること”です」 例えば、いま担任の3年柏組の子供たちはダイコンの成長に興味を持っている。「ダイコンを観察しよう」と言うだけでなく、必ず「気がついたことはある?」「不思議だと思うことはある?」「今度はどんなことをやってみたい?」などと問いかけ、思いをめぐらせる時間を意識してつくるようにしている。
「これを日々、欠かさずに行うこと。日常化がとても大事です。少しでも時間をとってあげると、毎日のちょっとした変化にも気が付き、発見したり工夫するようになるのです」
 

児童数が増加する伊那東小の北校舎。
新校舎はこの右隣に建築中

積極的に教室の外で事前に触れる

「やりたい」「なぜだろう」という気持ちを育むためにも、飯澤先生は教室の外へ出かけることを大切にしている。 「この学校は市街地にありますが、都会に比べたら恵まれています。近くには天竜川の支流、三峰(みぶ)川や田んぼ、畑、果樹園もある。自分の目で見たり、体で感じたり、耳で聞いたりしないと自然に興味は持てません。鳥を見よう、ドングリで笛をつくろうという気持ちにもならないでしょう」 校内にはパソコン教室もあるが、それよりは実際に植物や虫などに触れ合う体験を優先したい。「むつびあいの時間」と名付けられている総合学習の時間を活用して積極的に自然の中へ出ていくようにしている。

大勢の子供に理科の楽しさを

同小での夏休みの自由研究は、「一作品の提出」が全児童の課題となっている。飯澤先生が残念に思っていることは、図工や社会を選ぶケースが多くなり、6年間、一度も理科の自由研究をしないで卒業することも珍しくないことだ。せめてクラス単位で機会をつくって、できるだけ多くの子供に理科研究の楽しさを味わってほしいという願いがある。 「わからないことがわかっていく体験は面白いものです。理科の授業の延長でいい。何か疑問が出てきたらクラスで考えてみる。そして新しいことが少しでも見つかったら、コンクールに応募してみるのもいいのではないでしょうか」 クラスの一体感や、全員で味わう達成感も共同研究ならではのもの。 「実は私自身も小学生の時、クラスのみんなで研究や観察をした思い出があります。特に5・6年生の時はチョウの研究に夢中になって、毎日、捕虫網を持って学校に通っていました」 『土笛の音のひみつをさぐる』の研究に取り組んだ32人は今年4年生になっている。 「その子供たちが『総合の時間にまた何か調べて研究したいな』と言ってくれています。
そんな科学の目が育っていることがとてもうれしいです」 クラスメイトと一緒に研究する楽しさは、世代を超えてバトンタッチされていく。

学校プロフィール

学校プロフィール

長野県伊那市立伊那東小学校
ホームページ
〒396-0011 長野県伊那市伊那部1248
電話 0265-72-2007 
児童数=709人 1・2・4・5年=4クラス、3・6年=3クラス
飯澤 隆

飯澤 隆先生(48歳)
3年柏組担任

伊那市は長野県南部に位置し、西に中央アルプス、東に南アルプスを望み、南北に天竜川が貫いている。2006年3月に高遠町・長谷村と合併、山梨県とも接するようになった。伊那市立伊那東小学校はJR飯田線「伊那市」駅から約1kmほどの市街地にあり、08年度に創立110周年を迎える。毎年、11月の開校展には歴代のすべての卒業写真が展示され、多くのOB・OGが訪れている。教育目標は「かしこく やさしくたくましく」。学級名には、柳・桜・柏・梅・藤など植物名が使われている。現在、校庭に隣接して新校舎が建設されており、08年2月の完成予定。

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