クラスの共同研究で2度の指導奨励賞
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ドングリひろいから土笛作りへ
では、クラス全員が一つのテーマに関心を持つようにするためには、どんな点に心を配っているのだろうか。 「まず、時間をかけることです。こちらが教えるのではなく、少しずつ目を向けさせるようにして、子供たちが動きだすのを待ちます。自分たちで『やりたい』『やろう』と言い出すまでには時間がかかります。『不思議だな』と気付くにも時間が必要なんです」 『土笛の音のひみつをさぐる』の場合は2年・3年の2年間を受け持ったクラス。研究が完成したのは3年生の10月だが、最初のきっかけは2年生の秋のドングリひろいだった。 ひろったドングリを笛にして皆で鳴らして遊んでいたところ、1カ月ほどでひび割れてしまった。「粘土でも笛は作れるよ」という飯澤先生のひとことに皆は「やりたい!」とチャレンジすることを決めた。 「土笛は作るのは簡単ですが、奥が深い。吹く角度によっても音が出たり、出なかったりします。それぞれが工夫しながら、いくつもの土笛を作っていきました」
「なぜ音が出るのだろう」という疑問
やがて3年に進級。6月の音楽会で土笛の演奏をすることになった。 土笛は単音しか出せない。曲を演奏するには音が足りない。そこで、子供たちは考え始めた。「大きい笛は音が低い。小さい笛は音が高い」。そんな経験からさらに工夫を重ねて、無事に音楽会を終えた。 夏休みが明けたころ、ある子供が言った。「土笛ってどうして音が出るんだろう。棒をシュッと振ると音が出るけど、それと同じかな」 「私は『すごくいいことを考えたね。みんなの前で言ってごらん』とほめました。ほかの子供たちもこれを聞いて『なぜだろう』と考えるようになっていきました」 ころあいをみて自然科学観察コンクールを紹介したところ、子供たちは「挑戦してみたい」と意欲をみせた。「音の高さとかさ(容量)が関係しているのでは」と思いつくと、それぞれが自分の土笛を量ってデータを持ち寄る。実験しては考察。調べては考察を繰り返す。共同研究のメリットは一気にデータが集まること。クラス全体で約350個分の土笛のデータを集計することができ、10月末の締め切りに向けて研究は急ピッチで進んだ。
時間をかけること。考える場を作ること
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積極的に教室の外で事前に触れる
「やりたい」「なぜだろう」という気持ちを育むためにも、飯澤先生は教室の外へ出かけることを大切にしている。 「この学校は市街地にありますが、都会に比べたら恵まれています。近くには天竜川の支流、三峰(みぶ)川や田んぼ、畑、果樹園もある。自分の目で見たり、体で感じたり、耳で聞いたりしないと自然に興味は持てません。鳥を見よう、ドングリで笛をつくろうという気持ちにもならないでしょう」 校内にはパソコン教室もあるが、それよりは実際に植物や虫などに触れ合う体験を優先したい。「むつびあいの時間」と名付けられている総合学習の時間を活用して積極的に自然の中へ出ていくようにしている。
大勢の子供に理科の楽しさを
同小での夏休みの自由研究は、「一作品の提出」が全児童の課題となっている。飯澤先生が残念に思っていることは、図工や社会を選ぶケースが多くなり、6年間、一度も理科の自由研究をしないで卒業することも珍しくないことだ。せめてクラス単位で機会をつくって、できるだけ多くの子供に理科研究の楽しさを味わってほしいという願いがある。
「わからないことがわかっていく体験は面白いものです。理科の授業の延長でいい。何か疑問が出てきたらクラスで考えてみる。そして新しいことが少しでも見つかったら、コンクールに応募してみるのもいいのではないでしょうか」
クラスの一体感や、全員で味わう達成感も共同研究ならではのもの。
「実は私自身も小学生の時、クラスのみんなで研究や観察をした思い出があります。特に5・6年生の時はチョウの研究に夢中になって、毎日、捕虫網を持って学校に通っていました」
『土笛の音のひみつをさぐる』の研究に取り組んだ32人は今年4年生になっている。
「その子供たちが『総合の時間にまた何か調べて研究したいな』と言ってくれています。
そんな科学の目が育っていることがとてもうれしいです」
クラスメイトと一緒に研究する楽しさは、世代を超えてバトンタッチされていく。
飯澤 隆先生(48歳)
3年柏組担任
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