京都府京都市立命館中学校

2007年
取材

地域に開かれた理科教育を目指して

 

中高一貫教育でサイエンスを重視

京都駅からJR奈良線で約5分。二つ目の「稲荷」駅で降りると、すぐ目の前は伏見稲荷大社の広大な社(やしろ)だ。立命館中学校・高等学校はここから約1kmのところにあり、竹林や寺院が点在する古都の風景にとけこんでいる。
中高一貫教育の同校は、サイエンス教育に力を入れている学校として知られている。中学は2005年度から「理数大好き地域モデル事業」(文部科学省)の指定校に、高校は02年度から「スーパーサイエンスハイスクール」(同)に指定されている。
ここにご登場いただく木本正彦先生(第47回指導奨励賞受賞)は、中学校3年の学年主任であると同時に、高校1年のスーパーサイエンスコースの理科の授業も受け持っている。また、中・高のサイエンス部の顧問でもある。
昨年(第47回)、初めて自然科学観察コンクールへ15作品を応募、その中の一つ『指の長さの比は黄金比に近づくのか』が佳作を射止めた。受賞した奥野彰文君(当時3年)は、いま高校のスーパーサイエンスコースに通っている。
「応募数が多い中で選んでいただいて光栄に思っています。奥野君はこの受賞で加速度的にやる気が出て、いまもサイエンス部でバリバリ研究を続けています」
ちなみに高校のスーパーサイエンスコースとは、科学に重点を置いて科目編成された高校の選択コース。理数系教育における高校と大学の連携プログラムが特長で、木本先生もこのコースに関わっている。
 

中学・高校は同じキャンパス内にある

理科土曜公開講座で楽しく学ぶ

「中学校では理科教育に関して、ユニークな試みをいくつも行っているんです。まず、一つ目が理科土曜公開講座です」
これは年間12回、土曜日に実施される特別講座で参加は自由。理科の教員がそれぞれ自分の得意分野でテーマを考え、できるだけ楽しく理科を学べるように工夫を凝らしている。カリキュラムには「人工イクラを作ろう」「空気の不思議」「豆腐を作ってみよう」「天体観測」などが並んでいる。鴨川上流の静原川で河川生物を調査したり、京都市動物園など学校外に出かけるフィールドワークもある。
「私は4月に『新材料で遊ぼう』という講座を行って、世界最強の磁石、熱湯で溶ける合金などの不思議な物質をとりあげました。定員は40人だったのですが、約60人の応募があり、急きょ教室を2つに分けて実施しました」
参加するのは中学1年生が多い。今年からは年に数回程度、他校の中学生・小学生にも一般公開している。木本先生の呼びかけで3年前からスタートしたこの講座は、理数大好き地域モデル事業の一環として位置づけられている。

ポスターセッションコンテストの体験

二つ目は06年2月に実施した「サイエンスポスターセッションコンテスト」だ。
「ポスターセッションというのは、世界的にサイエンスコンテストで行われている方法です。自分の研究内容を模造紙2枚ほどのパネルにまとめて、10分程度で発表します。見学に訪れる人たちにも繰り返し説明するので相当勉強する必要がある。これを中学生にもぜひやらせたいと思いました。特に1年・2年生はドキドキするでしょうが、それもいい経験かなと」
こちらも理数大好き地域モデル事業として実施、他校にも参加を呼びかけた。理科の教員13人が手分けして、3~5校ずつ近隣の学校に出向いて説明したことで、外部の2校が参加を決めてくれた。
校内では立命館100周年サイエンスコンテストを実施、夏休みの自由研究、冬休みの調べ学習の中から作品を選抜し、さらに個別指導した。また、スーパーサイエンスコースの高校生を呼んで、ポスターセッションのお手本を見せたり、後輩の指導にも加わってもらった。
「最初、自分には無理だと思っていた中学生たちもこれで刺激を受け、次第に自分もがんばろうと変わっていきました」
最終的には86人がこのコンテストに参加、多くの生徒が貴重な体験を得ることができた。
 

校内に理科室は6室。
化学・地学・物理・生物は
それぞれ専用の実験室が備わっている

夏休みには全員が自由研究

夏休みの理科の自由研究は全員が必ず提出する。中学の場合は手書きが基本で、パソコンは不可だ。
「テーマを決める時は、理科の授業を1時間使って図書室に行きます。そこでヒントになりそうな本を1冊借りるように言います。理科準備室にある科学雑誌のバックナンバーを見る子もいます。煮詰まって迷っている場合は一緒に悩みますね。結局はカウンセリングのようになります。こちらから言ったテーマでは興味が続かないので、最終的には本人の考えや発想が第一です」
夏休み中には8月上旬と下旬にそれぞれ1日、自由研究の相談日を設けている。9月に入ると提出された作品を検討し、各種コンクールに応募する準備にとりかかる。
「研究の内容によってどのコンテストに向いているのかを判断します。できればどの生徒にも刺激を与えてあげたいですね。どこに応募するかをこちらで決めてから、本人とご家庭にお話をするようにしています」
 

蔵書5万冊を擁する図書室。
自由研究のヒントはここに

自然への畏敬(いけい)の念を大切に

同校では今年から新たな試みとして、中学1・2年の総合的学習の時間に英国の科学教育プログラム『CASE(ケース)』を取り入れた。これは簡単な実験をしながら自然の中の変数をみつけてデータ処理していく方法で、イギリスではこれを行った学校で学力が上がったとされている。このように学校ぐるみでサイエンス教育へのバックアップが行われている。
恵まれた環境にある生徒たちに木本先生が一番大切にしてほしいことは、自然に対する驚きを感じる心、おもしろいと感じる心だ。
「私は授業の中で、科学者の人間的なエピソードやそれぞれの発見のきっかけを話すようにしています。ニュートンやガリレオ、アインシュタイン……。物理学者の朝永振一郎さんの全集から印象に残っている話をすることもあります。生徒たちに伝えたいのは自然に対する畏敬の念です。自然に対する驚きやその中にひそんでいる喜びに気がついてほしいと思っています。そして理科を好きになってほしいですね」

学校プロフィール

学校プロフィール

京都府京都市立命館中学校
ホームページ
〒612-0884 京都市伏見区深草西出山町23
電話 075-645-1051 
児童数=675人 各学年=6クラス
木本 正彦

木本 正彦先生(54歳)
3年学年主任

立命館中学校・高等学校がある伏見区は京都市の最南部にあり、学校周辺には全国の稲荷神社の総本宮である伏見稲荷大社をはじめ、史跡や寺社が多く、風情ある町並みが残っている。1905年、私立清和普通学校として創設、1913年に私立立命館中学校と改称。「自由と清新」の建学精神のもと、創立102年の歴史を誇る。校内には学祖、西園寺公望の筆による「立命館」の文字が刻まれた額が飾られている。2002年度からは新カリキュラムを取り入れ、05年度に高校の選択コースとして「スーパーサイエンスコース」を設置。2008年度からは医歯薬系を目指すための中高6年一貫教育の「アドバンストコース」、高校の「メディカルサイエンスコース」が設置される予定。

学校取材レポート
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